ポストコロナ「日本特殊論」との決別が必要な訳 過去に倣いパンデミックは世界の秩序を変える

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ここでは「最悪のシナリオ」をつねに考え、できるだけ備えておかなくてはならないのです。最後のところそれは「小さな安心」よりも「大きな安全」を優先させなければならない心理的かつ戦略的トリアージュの世界です。

もう1つ、これも福島原発事故とも関連していますが、日本の技術はなぜ、いざというとき役に立たないのか……という敗北感です。危機に際して問題を解決する決め手にならないということです。第2次世界大戦のとき、日本はゼロ(零戦)といった匠の芸はありました。しかし、持続的な量産体制、戦いながら技術を更新し、バックフィットしていくことが苦手でした。レーダーや原子力のようなパラダイム・シフト的な技術革新を生み出す力は備わっていませんでした。

福島のときもそうでした。日本はそれまで「ロボット大国」を誇っていましたが、原子炉相手にセンサー機能にしても、撮影にしても、運搬にしても、無人化作業を行うロボットは最後まで出てきませんでした。最後に駆けつけてくれたのはアメリカのアイロボット(iRobot)です。フクシマのとき、「負けたな」という気持ちとともに「恥ずかしい」という気持ちもありました。

技術面で日本は明らかに後れを取っている

今回もどこかにそのような気持ちがあります。中国や韓国やシンガポールや香港など感染者の割り出し、追跡、ソーシャル・ディスタンシング警報、人流管理など大胆にデジタル技術を活用し、感染拡大を防止し、出口戦略を模索しているのに対して、日本は明らかに後れを取っています。少し前までは「3Dプリンター」で何でも作れるといわんばかりだったのに、人工呼吸器はできないのでしょうか。国民を守るための技術とイノベーションがなぜ、こうまで進まないのか。セキュリティーのための技術革新とイノベーション、とりわけデジタル・イノベーションが行われない。

細谷さんのご指摘通り、ポスト・コロナの世界には新しい国際秩序が生まれてくるはずです。そして、今後、新秩序をめぐって国々の興亡を懸けた賭けた闘争が繰り広げられるでしょう。そのとき、科学技術とイノベーションの力、なかでもデータの力を社会課題のために活用し、国民の安全に役立たせることができる国が、レファレンス(参考事例)と力を発揮するでしょう。

コロナとの戦いと同時に、ポスト・コロナの世界でどのような地位を得て、どんな役割を果たすことができるのかという戦いも行われているのです。その双方の戦いのさなかのいま、「戦後」を構想することができるかどうか、日本がそうした歴史的役割を果たすときだと思います。

船橋 洋一 アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長

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ふなばし よういち / Yoichi Funabashi

1944年北京生まれ。東京大学教養学部卒業。1968年朝日新聞社入社。北京特派員、ワシントン特派員、アメリカ総局長、コラムニストを経て、2007年~2010年12月朝日新聞社主筆。現在は、現代日本が抱えるさまざまな問題をグローバルな文脈の中で分析し提言を続けるシンクタンクである財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブの理事長。現代史の現場を鳥瞰する視点で描く数々のノンフィクションをものしているジャーナリストでもある。主な作品に大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した『カウントダウン・メルトダウン』(2013年 文藝春秋)『ザ・ペニンシュラ・クエスチョン』(2006年 朝日新聞社) など。

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