ポストコロナ「日本特殊論」との決別が必要な訳 過去に倣いパンデミックは世界の秩序を変える

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船橋:中国がカギになるということでしょうか。

細谷:その可能性は少なくないと思います。そのことをいち早く察知し、コロナ前からそのように動いてきたのが中国でした。すでに、世界中にファーウェイの5Gシステムを構築しようとし、テレコミュニケーションの支配を確立しようとしています。

しかし、中国はいくつかの点で国際社会の信頼を失っているので、そのような未来は流動的だと考えます。日本を含めた国々が、今後、中国がつくった5Gのシステムに依存していくのか、それとも、別の選択肢を求めるのか、それによって世界の趨勢は大きく違ってくると思います。

「最悪のシナリオ」通りの危機

船橋:示唆に富んだお話をありがとうございます。私も今回のコロナには心底、衝撃を受けています。全く違う世界が現れてくるのではないかという予感とともに、その中で日本がどうなるだろうか、という不安を感じます。まだ、これからどうなるか見通しがつかない、それでも日本はこの敵に一丸となって戦えるだろうかという漠たる不安です。

私もジャーナリストとして日本の戦後の危機をいろいろ取材してきました。1971年のドルショック、73年の石油危機、85年のプラザ合意、91年の湾岸戦争を取材しました。今世紀に入ってからも北朝鮮の核保有やリーマンショックや福島の原発事故といった国家的危機を取材してきました。

それぞれの危機は世界の秩序を大きく揺るがし、日本の国益や戦略にも大きなインパクトを与えました。そして、危機が通り過ぎ、それを取材し、記事に書き、本として世に出すたびにある種の敗北感を味わいました。なぜ、日本はこんな戦いしかできなかったのだろう、という敗北感ですね。特にフクシマでは、政府の危機対応の根本的問題はガバナンスの欠陥にあると痛感しました。国家として言えば統治の欠陥です。本当の国家的危機を戦い抜くための「国の形」になっていないのではないか、という敗北感です。福島原発危機のありようを総括するつもりで著した本のタイトルを『原発敗戦』としました。

とくに対外的な危機に直面したときは、どのような戦略を構想したとしても、内政にそれを支える裏打ちがなければ、ちゃんとした統治が機能しなければ、戦略は貫徹できない。戦略は統治を超えられない――というのが、フクシマに対する私の総括でした。あのとき、民主党政権の菅直人首相は危機のさなかに近藤駿介原子力委員会委員長に「最悪のシナリオ」をつくらせました。しかし、すでにそれは起こってしまっていた。「最悪のシナリオ」は有事に備えて平時に作っておかなければ意味がないということです。そして、常に新しいリスクを想定しながら、プランを更新し続けていなければ、プランニングし続けなければ、本当の備えにはならないということを学びました。

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