ガランとした診療所。待ち合いにいる数人の患者は、長いすの両端に座り、顔を合わせないようマスクをしてうつむいている――。
これは、新型コロナウイルスの感染拡大が見せる、もう1つの医療現場だ。
「十数年、ここでクリニックをやっていますが、どんなに少なくても1日に10人以上の患者さんは来ていました。ところが、4月に入ってから特に患者さんが来なくなりました。0人という日もありました」
こう話すのは、わだ内科クリニック院長の和田眞紀夫医師だ。都内の住宅街の一角に診療所を構えたのは、2005年。以来、地域のかかりつけ医として日々、地域住民の健康を支えてきた。
患者がゼロの日も。閑古鳥が鳴く診療所
だが、その日常が一変した。患者が街から消えたのだ。
日々、メディアは新型コロナウイルス関連による“医療崩壊”を報じるが、和田医師はこう考える。
「適切かどうかわかりませんが、『医療崩壊』という言葉が困窮した医療現場の状況を表すのであれば、まさに目の前で起こっている町医者の逼迫した状況も、別の側面から見た医療崩壊ではないでしょうか」
まるで収束の気配をみせない新型コロナウイルスの感染拡大。WHO(世界保健機関)の報告によると、世界の感染者数は255万人に迫り、死者数は17万5000人にも上った。国内の感染者数は厚生労働省の発表によると、1万1919人、死者数は287名だ(4月23日時点)。志村けんさんに続き、岡江久美子さんも新型コロナウイルスの犠牲となった。
新型コロナウイルスの感染拡大がもたらす医療崩壊。多くの人がイメージするのは、メディアなどを通じて報じられる、例えば、医療従事者が疲れ切った様子で医療現場の惨状を訴える状況、あるいは廊下に設置された簡易ベッドで治療を受けている感染者の姿ではないだろうか。
実際、日本でも、イタリアやアメリカ・ニューヨークで起こっているような医療崩壊に陥るのではないかと危惧されている。
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