ところが、それでも新型コロナウイルス感染症の疑いのある患者が、地域の医療機関を突然訪れることもあるというのだから、何重にも悩ましい。和田医師の場合、こうしたいわゆる“発熱難民”が来ても診療を拒まないため、「先生のところでようやく診てもらえた」とホッとした顔を見せる患者も少なくないという。
問題は、地域の診療所が感染症指定病院のような新型コロナウイルスに対する防護態勢を整えていないことだ。
マスクと手指衛生だけで感染疑いの患者を診る
「当院には、防護具も、フェイスシールドもなく、手指衛生とサージカルマスクだけで対応している状況です。すでに市中感染が始まっている中、いつ新型コロナウイルスに感染している患者さんを診るかわからない。自分が感染するリスクよりも、それを患者さんやスタッフ、その家族にうつしてしまうほうが怖い。その不安と日々闘っています」(和田医師)
そのうえ、患者が感染者であることが判明したら、14日間、診療所は閉めなければならない。その間の休業補償はなく、風評被害にあう可能性もある。こうした多岐にわたるリスクの中で患者を診ている。
厚生労働省の医療施設調査によると、2018年10月1日における医療機関の数は病院・診療所を含めて18万弱ある。このうち歯科診療所を除くと、病院は約8000件、一般診療所が10万件。つまり、9割以上が一般診療所だ。
新型コロナウイルス感染症の広がりによって、本来なら一般診療所に行くような患者の足が遠のく。新型コロナウイルス感染症の患者がふらっと来院して、院内感染を引き起こすリスクもある。
一般診療所はこの2つの事態に直面しており、そのいずれも一般診療所の経営を成り立たせなくするリスクをはらむ。いずれの要因によっても、一般診療所が崩壊を起こせば、地域医療そのものが立ちゆかなくなる。
さらに問題となっているのは、市中病院の院内感染だろう。
4月23日、日本看護協会の福井トシ子会長は記者会見で、20日時点で19都道府県、54施設で院内感染が起こり、感染者は783人に上ることを説明。「このような環境下で看護師は日々、看護業務を行っている」と窮状を訴えた。
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