企業・個人へのコロナ補償が曖昧すぎる大問題 緊急事態宣言で浮き彫りになる補償の曖昧さ

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第4の問題点は、万一の場合、労災が認定されるかどうかが不明確ということです。

休業とは逆に、コロナ感染のリスクと闘いながら、医療関係者をはじめ、電気やガス、鉄道、物流、小売り、金融機関など社会インフラを維持するために働いている方も多数います。そのような状況の中、筆者が、働く人から「会社から通常出勤の指示が出ているので出勤するが、万が一、コロナに感染した場合、労災扱いになるのか」という相談を受けたのは1度や2度ではありません。

この点、厚生労働省のHPには次のように示されています。

「業務又は通勤に起因して発症したものであると認められる場合には、労災保険給付の対象となります。(厚生労働省HP)」

確かに、厚生労働省は、コロナの発症が「業務又は通勤に起因して発症したものであると認められる場合」労災の対象になると述べていますが、1点、非常に気がかりなことがあります。

日本の労災保険制度の仕組みでは、「業務又は通勤に起因」していることの立証を労働者自身が行わなければならないということです。労働者本人が、労災の申請書類に労災であることの根拠となる理由を主張し、所轄の労働基準監督署が認めた場合に労災扱いになるということです。

現場任せになっている

もし、労災と認められなかった場合は、審査請求、再審査請求のうえ、裁判を行うという道も残されていますが、本人や家族にとっては大きな負担です。そして、コロナに感染した場合、労災扱いをしてもらえるのかどうかが不明確なまま、仕事に行き続けるのは大きな心理的負担であることは想像にかたくありません。

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ですから、ケースバイケースとして現場の判断任せにするのではなく、厚生労働省が通達を出すなどして、「明らかに私生活上に原因があると認められる場合を除き、出勤を命じられている労働者がコロナに感染した場合、原則として労災扱いをする」というような判断基準を国として明確に打ち出すことが必要なのではないでしょうか。

自粛をする場合の休業補償、テレワークを行うための支援、社会を支えるために働く場合の補償、それらの補償制度自体が存在しないわけではありません。ですが、それらの制度が曖昧であったり、複雑すぎたり、タイムリーでなかったり、という問題が浮き彫りになっています。

確かに、助成金の不正受給を避けるなどの対策は必要です。しかし、今は緊急時であることを踏まえ、迅速かつ十分な補償を国民に行き渡らせることを最優先に、補償制度へのテコ入れを行ってほしいものです。

榊 裕葵 社会保険労務士、CFP

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さかき ゆうき / Yuki Sakaki

東京都立大学法学部卒業後、上場企業の海外事業室、経営企画室に約8年間勤務。独立後、ポライト社会保険労務士法人を設立し、マネージング・パートナーに就任。会社員時代の経験も生かしながら、経営分析に強い社労士として顧問先の支援や執筆活動に従事している。

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