世界最悪の汚さ、インドの水道水を救えるか

インドで展開する水プロジェクト<第1回>

黒い川に生きる人々

タージマハルはヤムナ川に面して建つ。その対岸でヒショーさんはクリーニング業を営んでいる。荘厳な霊廟を臨むヤムナの岸辺が彼の仕事場だ。

昼下がり、炎天下の仕事場から家に戻ると、ヒショーさんはまずコップ1杯の水を飲み干した。夏になると気温が軽く40度を超えてしまうアグラでは、水分の補給はなにより暮らしに欠かせない行為である。居間のベッドに腰掛けた彼は、命をつなぐように渇いた体に水をしみ込ませていった。

もちろん、彼が飲んでいたコップの水は水道からの水ではない。20リットル入りのボトルを、1本10ルピー(約17円)で買った水である。飲料にはこの「安全な水」を使う。家族6人で1カ月に30本ほどの水ボトルを消費するという。必需品とはいえ、強いられる経済的負担は無視できない。

ヒショーさんの仕事はシーツやカーテン、カーペットといった大きな布類の洗濯である。家からヤムナ川までは歩いて2分。岸辺に大量の洗濯物を持ち込んで、すべて手作業で洗っていく。タワシに洗濯板、さらに各種の洗剤。大きなシーツを何枚も川の中で洗い、川の水ですすぎ、落としたすべての汚れを川へと流していく。

彼にとってヤムナ川は仕事場であり、生活の糧を生み出す場だ。川の“水”を使って稼いだカネで、暮らしに使う“水”を買う。ヒショーさんだけではない。ここでは夜明けから日没まで、多くの同業者が同じように仕事をし、日々、大量の汚れと洗剤の泡が黒い川に押し出されている。

「あのヤムナを見たら、川の水は飲めないよ」

そうヒショーさんは苦笑する。川の水が元になっている水道水は、たとえ沸かしても飲み水に使いたがらない。

なんとも皮肉なことだ。自分たちの生活を支えるがゆえに川は汚染され、そして、住民自らがより飲めなくしてしまった水のために、ここでは新たな水を確保しなければならない。

次ページ想像を超えた状況
ビジネスの人気記事
トピックボードAD
関連記事
  • 新競馬好きエコノミストの市場深読み劇場
  • コロナショック、企業の針路
  • コロナ後を生き抜く
  • ポストコロナの明るい社会保障改革
トレンドライブラリーAD
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
トレンドウォッチAD
スペシャルインタビュー<br>元ラグビー日本代表・畠山健介

今年から米メジャーリーグ・ラグビーのチームに所属、華やかな選手生活とは裏腹に幾多の葛藤を乗り越えてきた畠山選手。「ラグビーファンの拡大には、リーグのプロ化が不可欠だ」。新天地にいる今だから見えてきた日本ラグビー改革論を熱く語ります。