世界最悪の汚さ、インドの水道水を救えるか インドで展開する水プロジェクト<第1回>

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誰も飲みたがらない“危険な水道水”

現在のアグラに水源がないわけではない。ガンジス川最大の支流ヤムナ川が、アグラ市内を蛇行しながら縦断している。ヤムナ川もガンジス川と同様、インド神話の女神が宿る信仰の川。水量も豊かで、実際にアグラで使われる水道水の主水源になっている。

だがこのヤムナ川、つとに有名なのは、世界で最も汚れている川のひとつとしてである。

すべてがコーヒー色に濁り、黒ずんだ川の水。のぞいても魚影はなく、浅瀬であっても水底は見えない。岸辺には多くのゴミや排泄物が散乱し、そこかしこから、いや川の水全体から異臭が漂っているように感じる。細い側溝のドブ川などではない。川幅も広く、多くの水量をたたえる大河が、絶えず汚水を抱えながら都市の真ん中を流れているのである。

ヤムナ川の汚染の大きな要因となっているのが、アグラよりも上流部にあたる首都デリーの存在だ。人口増が著しい約2000万人の超巨大都市は、天然の浄化能力を超えた圧倒的な人間の廃棄物を、日々、ヤムナ川に垂れ流している。

排泄物、生活ゴミ、未処理の下水。さらにデリーとその隣のハリヤナ州工業団地からの、産業廃棄物に産業排水なども汚染に拍車をかけた。また、川沿いにはヒンドゥー教徒の沐浴場や火葬場が数多く置かれている。さまざまな宗教活動の結末さえも、やはり聖なる川ヤムナへと帰されていく。

デリーと流域諸都市のゴミを一手に引き受けたヤムナ川は、200キロメートル離れたアグラにたどり着く頃にはいっそう水質汚染が進んでいる。まさに聖なるドブ川だ。

ヤムナ川から取られたその水は、たとえ浄水施設を通って供給される水道水であっても、大腸菌レベルなどの水質データは飲み水に適している数値とはいえない。浄化のために大量の塩素も使用され、発がん性物質であるトリハロメタンどころか、さまざまな危険物質生成の可能性も指摘されている。

「危ない水で飲めやしない」

そう話しながら路地裏の住民が差し出す水道の水は、うすい黄濁色に染まり、少なくない泥臭さを放っていた。口に含むとヒリヒリといやな苦みさえ感じる。

とかくインドの水は訪問者に評判が悪い。決まり文句のように、「水が悪いから気をつけなさい」と注意喚起されたりするものだが、アグラの水道水は地元インドの人ですら「危険」だと話し、決して飲みたがらない水なのである。

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