「われわれには<おまえ>と呼び合う文化がある」
それに対してドイツの社会では年齢序列の感覚はほとんどない。が、二人称に関していえば親称「ドゥ(Du/おまえ、君)」と社交称「ジー(Sie/あなた)」の2種類がある。「あなた」から「おまえ」に変わるタイミングは世代などの属性によっても異なり、ネイティブでも迷う。日本語の感覚でいえば、いつからタメ口で話せるか、必要以上の丁寧語や敬語をいつから外すか、というのと近いのかもしれない。
ただスポーツクラブでははっきりしている。メンバーになったとたん「おまえ」である。たとえ16歳の若者が50歳の大学教授と話すときでも、メンバー同士なら「おまえ」なのだ。名づけて「タメ口カルチャー」だ。
当連載でも以前触れたが、ドイツのスポーツクラブの歴史は19世紀から続くもので、今の日本の感覚でいえばNPOと考えると理解しやすい。
そんなスポーツクラブには様々な理念や理想が付されてきた。もっとも歴史が長いだけに時代によってはナショナリズムを育む装置とされたり、軍事化をすすめることに使われたこともあった。
ひるがえって19世紀といえば、身分・階級がよりはっきりあった時代だ。その中で教養市民と呼ばれるエリートも労働者も、そしてクラブ内の上層部も一般のメンバーも、どのような立場であってもメンバーはお互いに「おまえ」と呼び合うことになった。
スポーツをともにおこなうメンバーの平等性という理想がそこにあったからだ。そしてそれは現代でも残っているわけだ。1848年設立のあるスポーツクラブの会長などは「われわれには<おまえ>と呼び合う文化がある」と誇らしげに述べる。
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