「高齢者お断り」の賃貸住宅が増えている理由 入居者を守るための法律が逆に足かせに

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昨年9月時点での65歳以上人口は3588万人で、今後もこの水準は変わらない。全員が持ち家に住めるわけではない一方で、自治体などが提供する公営住宅の数も限られ、入居が抽選となることも多い。

2017年10月には、高齢者や低所得者などの社会的弱者と、彼らの入居を拒まない民間の賃貸住宅をマッチングする「新たな住宅セーフティネット制度」が始まった。2020年度末までに賃貸住宅の登録戸数17万5000戸を掲げるが、今年1月末時点で2万424戸にとどまる。登録戸数1ケタ台の都道府県もあり、制度の認知も道半ばだ。

引っ越しが負担となる高齢者は、一度入居したら長期間住み続けるため、空室リスクが少ない。賃貸住宅にとっては本来歓迎すべき客のはずだが、滞納や孤独死のリスクを憂慮し、家主は二の足を踏んでいる。

借主保護に傾きすぎ

不動産業者からは、「(賃貸住宅の入退去を規定する)借地借家法は入居者の保護に傾きすぎだ」という声も上がる。(期限が終了したら契約も終了する)定期借家契約を除いて、一般的な賃貸借契約は1カ月や2カ月程度の家賃滞納では、大家は退去を求めることはできない。契約期間が満了しても入居者が更新を希望している場合は、家主はそれを断れない。

さらに、孤独死によるトラブルを避けるべく、契約書において「一定期間連絡がつかない場合、室内の私物を家主が破棄してもいい」という特約をあらかじめ設けていても、「入居者に不利な条項であると判断され、認められない」(太田垣氏)。入居者を守るための法律が、逆に入居者を縛ってしまっている。

賃貸住まいの人はもちろん、現在持ち家の人でも子供の独立を機にコンパクトな賃貸マンションに引っ越したり、利便性の高い都市部に移ったりする可能性がある。入居者と家主のすれ違いを解消するには、賃貸借のあり方まで踏み込む必要がありそうだ。

一井 純 東洋経済 記者

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いちい じゅん / Jun Ichii

建設、不動産業の取材を経て現在は金融業界担当。銀行、信託、ファンド、金融行政などを取材。

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