「高齢者お断り」の賃貸住宅が増えている理由 入居者を守るための法律が逆に足かせに

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認知症を患う高齢者で問題になるのが、家賃の滞納だ。太田垣氏が対応したある案件では、70代の男性が月5万円の家賃を滞納。滞納額は70万円超に上っていた。

日本の法律では、家賃を滞納されても、家主はすぐに入居者を追い出すことができない。裁判所に建物の明け渡しを求める訴訟を提起し、裁判所の判決を待つ必要がある。被告である入居者から何ら反論がなくても、判決までには少なくとも2~3カ月間はかかる。

明け渡し判決を勝ち取っても、素直に退去するどころか、そのまま居座る入居者も少なくない。すると次は強制執行の手続きに移るが、おどろおどろしい文言とは裏腹に、高齢者の場合は力尽くで退去させるわけにはいかないのが実情だ。

築古物件の建て替えに際しても、高齢者の退去は問題になる。写真はイメージ(撮影:今井康一)

強制執行では、家主が勝手に入居者をどかしたり荷物を撤去したりするのは許されず、明け渡したい建物がある地域を管轄する地方裁判所の執行官が中心となって行う。だが、「執行官は高齢者に対する強制執行をしたがらない。入居者を追い出した結果、命に関わる事態に繋がれば、執行官の責任問題になりかねないためだ」(太田垣氏)。

転居先が決まっているなど、入居者の身の安全が確保されていれば別だが、資力のない認知症の高齢者を受け入れる賃貸住宅はほとんどなく、強制執行が行われることなくそのまま居座られてしまう。幸いにも退去が決まったとしても、家主は滞納された家賃や現状回復にかかった費用は諦めざるをえないという。

賃借権も相続される

孤独死の場合、最大の問題は相続だ。入居者が死亡したとしても室内遺品は相続人のものであり、家主が勝手に撤去することはできない。さらにその部屋に入居する権利である「賃借権」まで相続されてしまうため、相続人は自分が住んでいない家賃を支払う債務を負うほか、家主は相続された賃借権を解除するまで次の募集をかけられない。

遺された契約について相続人と話し合おうと思っても、孤独死に追い込まれた入居者はもともと親族との関係が希薄で、誰が相続人かがわからない。家主自ら調べようとしても、「個人情報の関係で、行政機関は情報を出したがらない」(太田垣氏)。相続人を特定できなければ、建物明け渡しの訴訟を提起することもできず、家主は八方塞がりとなる。

一応、入居者が死亡した時点で契約が終了する「終身建物賃貸借制度」も存在するが、入居させる建物に対して家主が知事の認可を得る必要があり、使い勝手はよくない。

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