活動制限令が敷かれた当日、マレーシア政府は州をまたぐ移動を原則禁止とする方針に踏み切った。先述の通り、「里帰り」許可申請者が殺到したためで、親族の死亡などやむをえない事情がある場合のみ、最寄りの警察署で正式に許可証を得たうえで移動することが可能となった。やむをえぬ緊急の事情がない限り、現在はいかなる理由も認められない。制限や罰則の強化をすることで、強制的に人々の移動の流れを止める決断に踏み切った形だ。
ちなみに、当初2週間とされていた活動制限令はさらに2週間延長され、4月1日からはその内容も厳格化されている。食料品や生活必需品の購入のための移動などに際しても「自家用車1台につき1人まで」、つまり運転手のみの乗車しか認められない。さらに、その距離についても「居住地から半径10キロメートル以内」のみが許され、合理的な必要性がないかぎり他者の同伴は認められないという状況だ。
道路上での検問も急速に増加
「移動の制限」は徐々に厳格化されていき、道路上での検問も急速に増加している。首都クアラルンプールで、筆者が食料など日用品の買い出しに向かう際も、たった10分程車で移動した際も、往復で4回ほど検問に遭う。そして、細かに移動理由を聞かれる。どこの自宅から出発して、どこのショッピングモールやスーパーマーケットまで買い物に行くのか、などだ。もっぱら、アプリを使って検問を事前に察知して避けて移動するケースなども見受けられる。現在は警察だけでなく軍隊やドローンなども投入されて監視は強化されている状況だ。
マレーシアでは、首都クアラルンプールのモスクで行われた大規模礼拝が集団クラスターとなった。(「マレーシアの窮状が示す集団行事の巨大リスク」2020年3月24日配信)、その参加者が地方の自宅へと散り散りに戻り、家族や知人への感染を通じてさらなる拡散を全国的にもたらしたことも、比較的早い時点でアジア初の国境封鎖に踏み切るなどした政府のスピーディーな対応の背景にある。今日本でも懸念されている、いわゆる「家族クラスター」が、首都から地方へと拡散していったことに、政府は早くから危機感を抱いていた。
今、警察や医療関係者の間では、「#I I STAY AT WORK FOR YOU(私はあなたのために働きます) #YOU STAY AT HOME FOR US(あなたは私たちのために家にいてください)」などとプリントした紙を持って、国民に拡散する動きが広まっている。
各国で、どれほど強制力を持って移動や活動の制限をかけるかは異なるが、少なくとも個人レベルで意識を高め、行動に配慮することが求められていることは間違いない。
【2020年4月8日18時25分追記】日本の緊急事態宣言を受けた帰省の動きやSNS上の広がりについて、正確を期すために初出時の表現とともにタイトルを見直しました。
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