休校中の「闇部活」コロナ禍でも強行される異様 安全より「インターハイ」を優先する大人たち

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県が部活の再開を決めたことについて、同県に住む40代の男性は「そこまでして再開する必要性を感じない。都心など全国的に感染者が増えている状態なのに」と懐疑的だ。部活の参加条件は、検温と保護者の同意をとりつけること。高校で運動部に所属する息子は「出たい」と希望したため、同意したものの不安は残る。

「保護者の許可が必要となっているのが、責任の所在を曖昧にしているように感じる」と憤りを隠せない。

この状況では、生徒は「みんな参加するのに」、保護者は「他の親は許可しているのに」という同調圧力が生まれることは否めないだろう。感染ゼロ県とはいえ「誰か1人発症すれば厳しい状況になる」と男性は心配する。

なぜなら、山形県の三世代同居率は17.8%と全国1位。感染すれば重症化しやすい高齢者、つまりは祖父母世代が児童生徒たちと同じ家に暮らすケースが多い。したがって、全国一斉休校で子どもたちが規制をかけられた際、高齢者の集会はそのまま続けられていたことを危惧する声が上がり中止の呼びかけがされたという。

「まだ何も起きていないので、緩んでいるかなという気がする」

部活動もスポーツも、命を賭けてやるものではない

山形以外でも、春休みの部活再開を決めた県はいずれも累積の感染者数が一桁から十数人と少ない。部活動再開をまるで美談として報じる向きもあるが、とんでもないミスリードではないか。

スポーツ哲学、経営学に詳しい岐阜協立大学経営学部の高橋正紀教授は「スポーツは想定外の事態に対応する力を養う教材だ。今こそ、その力を発揮してほしいのに」と、休校中にかかわらず部活を続けたことを残念がる。

同大学サッカー部の総監督として、3月27日には部員らにイタリアの例を挙げてコロナ禍のあるべき行動について話をした。

「イタリアはすでに命の選別をせざるをえない状況です。医療崩壊が起きたら終わりだと僕らに伝えてくれている。君たちが高齢者に移したら高齢者はどうなるか。自分は絶対にかからない、そのために何をしたらいいのかと考えて行動してほしい。内発的に気づいてほしい」

部活動も、スポーツも、命を賭けてやるものではない。技術の向上は、収束した後でもできる。子どもたちに今学ぶべきことを伝えてほしい。

島沢 優子 フリーライター

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しまざわ ゆうこ / Yuko Simazawa

日本文藝家協会会員。筑波大学卒業後、広告代理店勤務、英国留学を経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。主に週刊誌『AERA』やネットニュースで、スポーツや教育関係等をフィールドに執筆。

著書に『世界を獲るノート アスリートのインテリジェンス』(カンゼン)、『部活があぶない』(講談社現代新書)、『左手一本のシュート 夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』(小学館)など多数。

 

 

 

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