「共同親権」は子ども視点で見ると大問題だ 「許可を得る相手」が増えるだけかもしれない

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以上の回答を公式統計などから検証してみよう。

厚労省が発表している「児童虐待相談における主な虐待者別構成割合の年次推移」を見ると、近年は父親が虐待する相談の割合が増えている。

2014年度では主な虐待者のうち52.4%が実母だったが、2018年度では47.0%に減っている。一方、同じ期間では実父が34.5%→41.0%と増加傾向にあり、数年も経てば、実父の割合が実母の割合を超えるかもしれない。

もちろん、単独親権にも虐待事案はあるため、「子どもファースト」で親権制度を見直すなら、共同親権ならではのメリットとして子ども自身のニーズを確認する必要がある。そのためには、すべての子どもが親権のメリットとデメリットを理解できるよう、丁寧に説明できる機会を創出することが避けて通れないだろう。

そのうえで、両親の離婚を経験した当事者や、虐待されて保護された未成年、大人になった虐待サバイバーなどに広く意見を聞く機会や全国調査を試みるのは、子どもの権利(意見表明権)を守るなら最低限必要な手続きであるはずだ。

現行の民法をふまえれば、親権者の義務は子どもの身の回りの世話や教育、しつけだけでなく、子どもの居場所の指定、子どもの職業の許可・制限、子どもの財産の管理、子どもの法律行為への同意など、多岐にわたる。

これを子ども視点で読み直せば、子どもは居住先も、進学先も、旅行先も、入院先も、就職先も、口座開設先も、すべて親権者の許可なしにはできないということだ。

両親が親権を持つと…

離婚後も両親に親権があるようになれば、2人の許可を得なければ物事が進まず、離婚した両親が子どもの養育だけ意見が完全に合致することは望みにくい。離婚自体が子どもに生活状況や姓の変化で心の安定に影響を与えるのは、自明のことだ。

両親が離婚し、夫婦関係を解消すること自体が子どもにとっては悩ましいことであり、離婚後まで親権者が2人のままになれば、養育・教育の方針すら一本化されなくなり、将来設計の不安も高じてしまう。

そして、最悪の場合、親権者2人に虐待されることがあれば、児相に保護されても2人の親権者からそれぞれ別個に家に帰るように説得されかねず、悩みは尽きない。

児童相談所長(または都道府県)が子どもを保護する際、その子の親権者が反対しても、児相側の訴えが家庭裁判所に認められれば保護できる。この子どもの身柄に関する児相VS親権者の争いを、「児童福祉法28条1項事件」という。

児相側が家裁に訴えを認められたケースの理由の内訳を見ると、2018年ではその9割以上が虐待だった(厚労省発表)。子ども虐待が親権の濫用によって生じることを、日本の司法は認めているのだ。

「子どもファースト」ではない共同親権が、このまま広く一般に受け入れられていいものだろうか?

今 一生 フリーライター・編集者

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こん いっしょう / Con Isshow

1965年生まれ、群馬県出身。早稲田大学第一文学部(当時)除籍後、コピーライターを経てフリーの雑誌記者に。1997年、『日本一醜い親への手紙』を「Create Media」名義で編集。Create Media名義の編著に『子どもたちの3.11』(学事出版)ほか。著書に『よのなかを変える技術 14歳からのソーシャルデザイン入門』(河出書房新社)、『猫とビートルズ』(写真・雨樹一期との共著/金曜日)など多数。

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