ヤフーがソフトバンクに4500億円を"上納" ソフトバンクのメリットは明白だが・・・・

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現在のイー・アクセスは、大半がモバイルWi-Fiルーターのユーザーで、スマホは1割程度に過ぎない。また、ウィルコムも、多くのユーザーが月額980円で通話し放題となるプラン「だれとでも定額」を利用するなど、音声通話を中心にユーザーを開拓してきた。格安スマホに力を入れ始めたのも、昨年夏以降のことだ。

ソフトバンク傘下の「格安携帯会社」として独自のニーズを開拓してきた両社では、スマホでネットを使い倒すようなユーザーは少ない。「スマホの普及でインターネット広告やeコマースを伸ばす」という目標を達成するには、これまでとはまったく異なるユーザー層の獲得が不可欠だ。既存ユーザー向けのサービスを維持しつつ、新サービスでユーザーの開拓を進めるのは容易ではないだろう。

ソフトバンク側のメリットは明白

一方、ソフトバンクにとってのメリットは明白だ。同社は現在、米国携帯4位のTモバイルUS買収を目指している。上位追撃に向けた最優先戦略だ。米国当局は慎重な姿勢を示しており、買収の成否は不透明だが、孫正義社長はワシントンやテキサス州で米国市場の競争活性化について講演するなど、アピールを重ねている。

今回の取引では、イー・アクセスがソフトバンク子会社から借りている1300億円についても、全額をヤフーにリファイナンスされるため、ソフトバンクは合計で約4500億円の資金を確保することができる。

親子間の大型買収は今回が初めてではない。ヤフーは2009年、ソフトバンクのデータセンター事業者を450億円で譲受したことがある。アナリスト説明会では、「取引は親会社への資金提供ともとらえかねないのでは」との厳しい質問も出たが、宮坂社長は「(親会社との取引なので)色々と言われることを覚悟してやっている。ただ、ヤフーがやったほうが絶対にうまくいく、伸ばせると確信している」と説明した。

ヤフーは2019年3月期までのどこかで、12年3月期比で営業利益を倍増させる計画を掲げている。大矢俊樹CFOは「今回の買収で、目標の達成確度は高まる」と説明したが、はたしてどうか。ヤフーの少数株主にソフトバンク株を割り当てる形で非上場化したほうが、よほどスッキリするのではないだろうか。

長谷川 愛 東洋経済 記者
田邉 佳介 東洋経済 記者

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たなべ けいすけ / Keisuke Tanabe

2007年入社。流通業界や株式投資雑誌の編集部、モバイル、ネット、メディア、観光・ホテル、食品担当を経て、現在は物流や音楽業界を取材。

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