なぜ米緊急緩和や日銀のETF買いは最悪なのか FEDも日銀も「愚かなこと」をやってしまった

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これは3月頭のアメリカの緊急利下げのときも起きたことで、FED(米連銀)はまったく学んでいなかった。さらに愚かなことに、日銀は2度の彼らの失敗をわざわざ真似して、大暴落を作ってしまった。

FEDが15日に行った政策については、また金利を下げており、量的緩和にしても国債の買い入れだから、金利を下げるという目的があり、資金繰りを支援し、実体経済を支えるという大義名分は成り立つ。やり方として、実施方法としては失敗したが、やる理屈はある。

一方、日銀の株の買い入れはどうか。株式市場を支えること以外の理由が何もない。株を買っても、新型コロナの影響で売り上げが落ち込んだ中小企業を支えることに、1ミリの効果もない。したがって、今回の株式買い入れ拡大は、株価を支えることだけしか目的はないのに、180度逆の結果をわざわざ自分で作った。

愚かにもほどがある。

今回の最大のミスとは?

なぜ、今回のアメリカ緊急緩和、日銀の株式の買い入れは最悪なのか。

第1に、投資家、トレーダーたちに売り場を与えてしまったからである。何度も言っているように、投資家、トレーダーたちは、暴落局面では売り場を探し求めている。彼らに売り場を与えてはいけない。買い支えはさらなる売りを招くだけで、絶好の標的なのだ。

しかし、今回の最大のミスは「サプライズを演出しようとして失敗したこと」である。

FOMC(米公開市場委員会)は、もともと今週17-18日に予定されていた。そこでは市場関係者全員が利下げを予想していたし、FEDもそのつもりだった。だから、織り込み済みの政策をそのまま打ち出すのでは効果がないから、敢えて、たった48時間だが、前倒しの、予期せぬ日曜日の夜発表することでサプライズを演出することを狙ったのだ。

これが、最悪だ。最悪中の最悪だ。

もし、あなたが暗闇で誰かに教われないがびくびくして歩いていたときに、後ろからいきなり警官が現れたら、それが警官であろうが、強盗であろうが、あなたはびっくりして大声をあげて逃げ出すだろう。

同じことだ。

市場のセンチメントは最悪である。恐怖指数は最大である。そのときに、サプライズが出てくれば、良いニュースか悪いニュースか、中身は関係ない。サプライズ自体がもっとも怖いのだから、ショックが起きる。ショックはセンチメントが最悪なのだから、マイナスの極みに振れる。そういうことだ。

例えば、誕生日を迎えたかなり高齢のひいおじいちゃんに、ドッキリカメラで「サプライズー!」といって驚かせたら、心臓発作で死んでしまうかもしれない。そんなことも分からない医者はいない。だが、金融緩和をする人や、ましてや金融政策と無関係な株の買い支えをする人々が、金融の中枢にいる。

最悪だ。

今度こそ、学んで欲しい。

小幡 績 慶應義塾大学大学院教授

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おばた せき / Seki Obata

株主総会やメディアでも積極的に発言する行動派経済学者。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2001~2003年一橋大学経済研究所専任講師。2003年慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授、2023年教授。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。著書に『アフターバブル』(東洋経済新報社)、『GPIF 世界最大の機関投資家』(同)、『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『ネット株の心理学』(MYCOM新書)、『株式投資 最強のサバイバル理論』(共著、洋泉社)などがある。

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