そして、その間に、メドヴェージェフは「次期大統領から」大統領任期を4年から6年へと延長する憲法改正を行い、プーチンがその後、12年間大統領として君臨する道を開いた。プーチンは2012年に大統領に返り咲き、2018年に再選されて今に至るが、2024年に任期を全うした後の去就は国内外で大きな関心の的になってきた。
そのような中、今年の1月15日にメドヴェージェフ内閣が総辞職し、同日、プーチンは「憲法改正案」を発表した。その主柱となるのが、大統領の任期を連続2期ではなく、通算2期に変更すること、そして、国家評議会の権限を強化することであった。
大統領任期を通算2期までとすれば、プーチンが使った首相職との往来などで永続的に権力の座に止まる仕組みが今後、使えなくなるため、強権を長期に維持できる人物が生まれにくくなる。
また、国家評議会は大統領が主宰し、政権幹部および各地域の首長らから成る諮問機関で、これまで実質的に権限がなかったが、その権限を強化したうえで、プーチンがその長に就任し、院政を敷くつもりなのではないかと見られたのである。これらの動きから、少なくとも、プーチンが2024年に大統領職を退くことは確実だと考えられた。
5選出馬を可能にする改憲法案が可決
しかし、3月11日に大どんでん返しが起きた。ロシア下院が、憲法改正法案を審議する第3読会(本会議)を開き、プーチンの5選出馬を可能にする改憲法案を可決したのだ。
その前日、10日の第2読会で世界初の女性宇宙飛行士で国民の尊敬の的であるワレンチナ・テレシコワ議員(与党「統一ロシア」)が突然、任期制限を撤廃するか、新憲法の発効時に大統領の過去の任期を「ゼロ」に戻すべきだと提案した。
その提案はプーチンの再任を可能とするものであることは言うまでもない。そして、その提案は、すぐに法案に追加された。
さらに、その第2読会での演説で、プーチンは経済や安全保障上の安定のために「強力な大統領による(権力の)垂直構造が絶対に必要だ」と述べ、それは事実上、5選目への決意表明と受け止められた。新型コロナウイルス問題で社会情勢が不透明化し、経済の不安も大きくなる中、プーチンの発言はポジティブに受け止められた。
改憲案は上下院で承認されると、それはすぐに全85地方議会からも承認された。さらにプーチンも14日に自ら署名し、16日には憲法裁判所が合憲の判断を下すという、異例のスピード審理で必要なプロセスが進められた。今後、4月22日の国民投票に付されるが、賛成となることはまず間違いなく、改憲が成立するだろう。
このような、憲法改正によって過去の任期数をリセットし、元大統領の出馬を可能にするという荒技は、かつて、同じく旧ソ連のアゼルバイジャンが2003年に死去したヘイダル・アリエフの3期目の出馬を合法化するためにとった手法だ(ただし、ヘイダル・アリエフは大統領選挙前に死去)。
現状では、プーチンが次の大統領選挙に出馬するかは不明であるが、もし、プーチンが5、6期目にも大統領職を務めることになれば、2036年までトップの座に居座ることになる。そのため、反体制派やリベラルメディアなどは、プーチン体制の恒久化を懸念している。
このように、プーチンは新型コロナウイルス問題と石油価格問題という2つの地政学的リスクに直面しながらも、そのピンチをチャンスに変えて、自身の権力体制を維持するシステムを構築してしまった。
このような動きは、自由民主主義国では到底想定できないものであるが、地政学的な感覚を研ぎ澄まし、状況に柔軟に対応してきたプーチンだからこそできたことだともいえるだろう。今後の動きもしっかり注視してゆく必要がありそうだ。
(3月17日脱稿)
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