追跡・監視の対象は政府系のスプートニクおよび、RT(ロシア・トゥデー)、ロシア国防省系のテレビ局「ズベズダ」、およびこれらのメディアの各国語版(英語、スペイン語、フランス語、ドイツ語、トルコ語)などの各種メディアであり、これらはロシアの「シャープパワー」戦略の実行役として、かねてより注視されている媒体だ。
そして、文書には、ツイート数や「いいね!」数が多いアカウントや最もよく使われているハッシュタグ、キーフレーズ、最も多くの反響があった記事などが列挙されており、これらのツイッター・アカウントで1月28日から2月3日の間に最も多く使われたハッシュタグが「コロナウイルス」だったということも記されていたという。
なお、調査期間中に最も活発な動きがみられたロシア政府系アカウントは、RTのスペイン語版(1658ツイート)、スプートニクのトルコ語版(1122ツイート)とスプートニクの英語版(1046ツイート)だったとされる。
コロナ危機のターゲットにされたアメリカ
そして、アメリカ国務省でプロパガンダ対策を担うグローバル・エンゲージメント・センターのコーディネーターであるリー・ガブリエル氏は、3月5日の上院外交委員会・小委員会で、新型コロナウイルスに関し、ロシアによる虚偽情報のエコシステムがフル稼働していると述べた。また同センターはロシアによって、「200万件の陰謀論」が拡散されているとも分析している。
実際、中国、イランと同様に、ロシアはアメリカを批判する論調を展開してきた。例えば、RTは新型コロナウイルスを「アメリカによる生物兵器」だと述べ、イランや中国の主張と歩調を合わせた。
また、2月26日には、ロシア自由民主党党首であるウラジーミル・ジリノフスキーが、アメリカが中国での新型コロナウイルスの蔓延の主な原因だと指摘し、「新型コロナウイルスはアメリカによる扇動行為だ」と述べ、「アメリカは中国経済に打ち勝つことはおろか、少なくとも中国と経済的に対等でいられないことを恐れている」とまで主張したのである。
また、ロシアはかねてより、旧ソ連の中では親欧米・反露路線をとるジョージアに対して懲罰的行為を取り続けてきたが、その一環で、アメリカの資金で運営されているジョージアのバイオ研究所である「ルガー研究所」に対する攻撃も行われてきた。
ロシアは同研究所が生物兵器の開発拠点だと主張してきたが、今回の新型コロナウイルス問題においても、その議論を復活させ、同研究所と新型コロナウイルスの関係を喧伝しているという。それにより、アメリカの国際的な信頼をおとしめるだけでなく、ジョージア・アメリカ関係にも亀裂を生じさせる効果が望めるというのだ。
加えて、新型コロナウイルス問題は、サイバー攻撃にも利用されている。例えば、バルト諸国に現地支局を置くメディア5社が、ロシアからと思われるハッキングを受け、「NATO軍の一員としてリトアニアに駐屯している米軍兵士らがコロナ罹患(りかん)との診断を受けた」という虚偽ニュースを掲載することになってしまったのである。
ロシアにとって、旧ソ連のバルト三国に駐留している米軍は深刻な脅威であり、このような危機の際にターゲットにされたということには十分な理由がある。
また、ロシアと厳しい関係にあるウクライナも被害に遭っている。例えば、ロシア連邦軍参謀本部情報部(GRU)傘下のハッキンググループ(2016年に米民主党全国委員会にハッキングした「APT28」や「Fancy Bear」などと呼ばれているグループ)と関連があるとされる「Hades」は、2月半ばに新型ウイルス関連のニュースを含む文書を同国保健省の公衆衛生センターを差出人と詐称する電子メールに添付し、マルウエア・ウイルスを仕込んで送信する標的型電子メール攻撃を行った。
それと同時に、新型ウイルス関係の大量のスパムメールがウクライナ中に送付され、SNSに同ウイルスの感染者が出たというメッセージが拡散されたのだ。さらにそれらを見た人々が、SNSで情報をさらに拡散させ、結果、各地でパニックが起きて、一部では暴動に発展したという。
また、一部の地域では、混乱が続くウクライナ東部からの避難者がウイルスを持ち込んでくるというデマも拡散し、病院が封鎖された例もあったという。
なお、3月4日に、プーチン大統領は国内での新型コロナウイルスの感染拡大について、連邦保安庁の情報として「外国が作ったフェイクニュースだ」と主張している。そして、17日にはモスクワに新型コロナウイルスに関する情報センターが開設され、同日、プーチンが視察した。同センターは内外の情報収集やインターネットでの偽情報拡散を予防するための監視を行うという。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら