また、早くから会社レベルでも海外出張を禁じたり、自宅勤務を推奨する措置が取られるなど、国民の危機意識も高かったと言える。
そして、3月初旬に医療用マスク、手袋、包帯、防護服の輸出が一時的に禁止され、10日から人々がラッシュアワーに公共交通機関を利用したり、ショッピングモールや公共の場所になるべく行かないようにしたりすることが推奨されるようになった。加えて、12日からは4月10日までの5千人以上の大規模なイベントが禁止され、企業が在宅勤務を認めるようになった。
そして14日には、ポーランドとノルウェーとの国境閉鎖が発表され、私立学校などに対しても2週間の休校かオンラインの授業にすることが推奨されるようになった。さらに16日には、18日から5月1日までの外国人の入国を原則禁止としたのだった。
このように、ロシアの国内外に対する対応は、かなり厳格に行われたと言ってよい。
概して、自由主義の国は、人の移動を重視することから、国境封鎖や入国禁止措置などは取りにくい傾向がある。それに対し、ロシアはそのような政策でもすぐに実行に移せたのは、権威主義のゆえということもできるだろう。
実際、ロシアに限らず、旧ソ連諸国はイランのような爆発的な感染拡大国に接するアゼルバイジャンやアルメニア、トルクメニスタンですら、感染数が低く抑えられており、アルメニアは最近、民主化傾向が強まっているとはいえ、ソ連的な統治が感染拡大の阻止には有効であるということがいえそうだ。
とはいえ、中国の事例を考えてみると、権威主義が必ずしもウイルス対策によいとはいえない面もある。
中国は、感染が拡大した後は、その強権体制を生かして武漢を封じ込め、パンデミック状態から予想より早く抜け出せたと発表している一方、ウイルスの感染が広がり始めた頃に、情報統制を行った結果、爆発的感染が広がったという事実もあるからだ。
フェイクニュース問題
このようにロシアは新型コロナウイルス問題対策には比較的成功しているといえるのだが、その裏で同問題の政治利用をしているしたたかな側面もある。その1つがフェイクニュースの利用であろう。
新型コロナウイルス問題では、ロシアを発信とするものに限らず、多くのフェイクニュースが世界を席巻している。世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム・ゲブレイェスス事務局長も「私たちはウイルスと戦っているだけでなく、トロールや陰謀説とも戦っている」と述べ、それらによる混乱が問題への対応を一層難しくしていると警鐘を鳴らしている。
また、デマが世界の混乱をより深刻にしている。
例えば、日本でもトイレットペーパーが買えなくなるというデマからトイレットペーパーなどの買い占めが横行し、○○度でウイルスが死滅するなどのウイルス対策情報が氾濫した。
このように、世界のネット上では、不安をあおったり、医学的根拠を欠く情報が無尽蔵に飛びかっている。WHOはこの状況を「インフォデミック(Infodemic)」として、信頼できる情報の入手が困難になっていると警告している。
それでも、フェイクニュースの世界における最大の脅威と見られているロシアには、早期から警戒の目が向けられた。
2月7日の『ニューズウィーク』の報道によれば、同紙は「アメリカ北方軍はロシアが新型コロナウイルスに関する虚偽情報を広めようとした場合に備えて、ロシア政府が運営する(またはロシア政府が発信元の)アカウントを監視している」ことが記載されたアメリカ防総省の機密文書を入手したという。
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