そのような中で、地政学的に深刻な危機が起きた。3月6日の石油輸出国機構(OPEC)プラス会合における協議が決裂したのだ。新型コロナウイルスの影響で世界の経済活動が停滞し、国際エネルギー機関(IEA)は需要の伸びが、前年比マイナスになるという厳しい予測を示している。これは2009年以来のことだ。
このようなタイミングで、2018年以降、原油の需給と価格の安定を支えてきたOPECプラスの協調減産体制が3月末で終了する見通しになったことは、世界に大きな衝撃を与えた。以来、原油価格は安値を更新し続け、世界の株式市場も大混乱に陥っている。
なぜ、OPECプラス会合が決裂したのか。ごく簡単にいえば、ロシアは市場シェアを重視し、協調減産体制の強化には慎重であり、現状維持を主張したのだが、サウジアラビアが即時の危機対応が必要だとし、4月の原油供給量を日量1230万バレルまで引き上げる方針を主張したのだった。
アメリカのシェール・オイルに対抗するために、ロシア・サウジアラビアが協力して決裂を導いたという陰謀説もあるが、恐らくそれは正しくない。ともあれ、結果的に、石油価格は低迷し始めてしまった。
ロシアは石油・天然ガスを豊富に有する資源大国だ。まさにその資源がロシア経済のバックボーンであり、資源頼みの経済運営を続けてきた。そのため、石油・天然ガス価格によって、ロシアの経済状況は大きく左右される。
また、ロシアの場合、石油価格と同国通貨・ルーブルが連動しており、石油価格が下がればルーブル安になるという構造もある。ロシア財務省は、原油価格・為替下落に伴う景気後退は予期していないと発表しており、ロシアにはリスク保証のメカニズムである「安定化基金」も存在しているものの、ロシアで危機感が高まっているのは間違いない。
「安定化基金」は、国家予算赤字補填用の準備基金(予備基金)と将来の投資や年金補填用の国民福祉基金(次世代基金)から成っていたが前者は2017年末までに底をつき、事実上、後者に一元化され、後者が赤字補填にも用いられるように法改正がなされた。
だが、来たる石油価格下落に伴って生じた赤字を国民福祉基金で補填すれば、国民の年金を維持するうえで大きなリスクが生まれる。とくにロシアでは、年金が持つ意味が極めて大きく、それは2018年に年金受給年齢の引き上げが決定されたときの国民の反発と政権の支持率低下からも顕著に見て取れる。つまり、支持率を維持するためには、年金の原資には手をつけづらいというのが実情なのである。
こうして、ロシアは新型コロナ問題と経済という二重の懸念材料を抱えることになってしまったのである。
改憲問題と大統領制
だが、プーチンはそのような「危機」を自身の権力維持のために、したたかに利用してしまった。
ロシアの憲法規定では、大統領職は連続2期までとなっていた。プーチンは、2000~2008年に2期大統領を務め、憲法規定に基づき、2008~2012年にはメドヴェージェフに大統領職を譲る一方、自身は首相として影響力を保持し続けた。
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