保育所は、なぜ需要があるのに増えないのか?

経営してみてわかった、待機児童が減らないワケ

認証保育所でも、経営は厳しい

確かに認可外だった時代に比べると、補助金が増えて、経営状態はかなりよくなりました。収入は自治体からの補助金と利用者からの保育料がほぼ半分ずつという割合で、ちょうど収支がトントンといった感じです。しかし、現場の保育士さんたちの待遇は、公立の保育所に比べるとはるかに劣悪です。年収でいうと、半分から3分の1でしょうか。

子どもたちから大人気の男性の保育士さんに、飲み会の席で「この給料では、自分が子どもを持ったときに働き続けられるかどうか」と言われてしまうほどだったのです。この発言に腹をくくった私たちは、運営委員会として父母会を巻き込みながら、中堅の保育士さんに定着してもらうために、デフレのさなかに保育料値上げの提案をしました。

利用者なら誰だって、保育料は安いほうがいいでしょう。でも私たちは、手間暇をかける質の高い保育を守る以上、「値上げをしないのなら、あなたはどういう貢献をしてくれるのですか?」と問いかけました。

背景には、今よりもずっと経営が大変だった時代に、子どもも動員してキャンパスのミミズを大量に捕まえ、生物学の研究室に買い取ってもらったり、といった自助努力の歴史があったからです。保育士さんたちにも、ベースアップで受け取る数千円に、感謝と期待の想いを込めることができました。逆に言えば、市場原理で「よい保育」を確保するのは、たいへん難しいことなのです。

東京大学にはキャンパスがたくさんあるために、全部で保育所が7つあるのですが、(国の基準を満たす)認可保育所から、私たちのような(都の基準を満たす)認証保育所、さらには業者にすべて委託するタイプのところまで、形態はさまざまです。

土地生産性という意味から見ても、私たちの保育所の経営が成り立つのは、大学から家賃を優遇されているからです。これでもし、東大駒場キャンパスという、渋谷まで徒歩圏内の平屋の園舎に対する相場の家賃を払えば、あっというまに破産です。

要は、公有地や、鉄道会社が自社ビルを使って駅前保育所を作るといったケースでないかぎり、大都市部の保育所というのは、普通に考えると更地のまま駐車場にしたほうが儲かるような、粗利の少ない施設なのです。

横浜市が待機児童を解消したと話題になっていますが、あれは小規模な家庭的保育(いわゆる保育ママ)を、NPO法人などを含めて活用したのが大きな要因のひとつです。子育て経験者を利用して、少人数の家庭保育を行う仕組みで、確かにもっと普及してよい保育形態だと考えられます。ただ、多くの人が、施設型の保育を希望します。しかも専業主婦世帯でも潜在的な就労希望者がいるために、保育所は当面、作っても作っても、新しい需要を生み出すでしょう。

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