保育所は、なぜ需要があるのに増えないのか? 経営してみてわかった、待機児童が減らないワケ

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待機児童問題は、市場原理では「解決」しない

一方で、幼稚園は少子化に伴って閑古鳥が鳴く状態になりつつあります。私は大都市圏の公立の幼稚園というのは、もはや役目を終えて民業圧迫の域に達しているため、保育の機能も備えた「こども園」になるべきだと考えるのですが、なかなかそうもいかないようです。

3歳以上を対象とする幼稚園が、突然、0歳児を受け入れるといっても、スペース・技能とも大きな違いがあるのは事実です。もう20年以上言われていることですが、幼稚園が文科省、保育園が厚労省の管轄で、それを統合した「こども園」は、一向に整備が進みません。

周辺の小学校には、1学年に1クラスしかないところがけっこうあります。そういった公有地を使わないかぎり、保育所の経営を成り立たせることはかなり困難です。ただ、6年生がボールを蹴っている横で、1歳児がよちよち歩きをすることはできません。小学校の側が簡単に、「うちのスペースを使ってください」と言うとも思われません。

北欧を除けば、日本の保育所のシステムというのは、世界的に見て、比較的よくできているほうではないかと思います。量的にも、質的にも。保育ママのような小規模保育の制度をうまく活用すれば、もう少し待機児童数を減らすことはできるでしょう。

また、認可外保育所というと事故のイメージばかり浮かびますが、認可外でもきちんとした保育をしているところはたくさんあります。ただ、大都市圏で圧倒的に保育サービスが供給不足になるのは、端的に言って市場原理では解決できないからなのです。

規制緩和をすれば企業がたくさん参入して待機児童問題は解決する、などという主張もありますが、私には現実を見ていない議論にしか思えません。それはおそらく「解決」したとしても、市場原理に基づくのですから、今よりも質の悪いサービスがより高い価格で提供されることになるだけでしょう。

うちの保育所も、今ではたいへん人気が高く、すでに来年4月からの利用を見込んでの申し込みも来ています。本来ならば専業主婦世帯でも、気楽に保育所が利用できるような環境を作るべきなのですが、そこまでの道のりは視界のはるか彼方です……。

あ、最後にひとつ。保育所は子どもが産まれてから探すと手遅れになることもよくあります。安定期に入ったら、カップルで検討を始めましょう。

瀬地山 角 東京大学教授

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せちやま かく

1963年生まれ、奈良県出身。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了、学術博士。北海道大学文学部助手などを経て、2008年より現職。専門はジェンダー論、主な著書に『お笑いジェンダー論』『東アジアの家父長制』(いずれも勁草書房)など。

「イクメン」という言葉などない頃から、職場の保育所に子ども2人を送り迎えし、夕食の支度も担当。専門は男女の社会的性差や差別を扱うジェンダー論という分野で、研究と実践の両立を標榜している。アメリカでは父娘家庭も経験した。

大学で開く講義は履修者が400人を超える人気講義。大学だけでなく、北海道から沖縄まで「子道具」を連れて講演をする「口から出稼ぎ」も仕事の一部。爆笑の起きる講演で人気がある。 
 

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