西アフリカで人気沸騰中の「GEISHA」缶の正体 輸出魚優等生のサバに異変が起きている

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現在は中国の業務委託企業が中国国内で生産した缶詰を、中東川商フーズが買い取り、アフリカ向けに販売している。年間の販売量はナイジェリアが650万缶、ガーナが400万缶。ガーナでは425グラム缶が主流で1缶1.55ドル(約170円)、ナイジェリアでは155グラム缶が0.5ドル(約55円)、425グラム缶が1.2ドル(約132円)で売られている。

MILOの缶の隣に並べられている「GEISHA」(写真:川商フーズ)

現地の食卓では鍋に移して煮込み、ヤムイモなどの主食と一緒に食べるのがポピュラーだ。現地ではサバ缶が「GEISHA」と呼ばれるほど一般名詞化していて、そのブランド力はトヨタ自動車と肩を並べるほどとも言われている。

すっかり現地に溶け込んだ川商フーズは2011年から現地の教育機関などに学校用品や缶詰製品を寄贈するCSR活動を行っている。目先の利益追求ではなく「未来のマーケットに向けて子どもたちに親しんでもらいブランドを引き継いでいく」(川商フーズ)ための取り組みだという。

2010年に約10億人だったアフリカ諸国の人口は2050年には20億人へと倍増するとみられている。その巨大な食のマーケットで「GEISHA」がトップシェアを誇る日が来るかもしれない。

サバの水揚げ量、輸出額がともに大幅ダウンの異変

さて、2019年の水産物輸出額は2873億円で、前年比で5.2%の減少だった。このうちサバ類(206億1157万円)が占める割合は全体の7.2%。ホタテ貝、真珠と並ぶ主要品目の1つだが、2019年は輸出量が前年比32.1%減、輸出額が22.8%減といずれも大幅な減少となってしまった。

国内のサバの水揚げが大きく落ち込んだためだ。水産庁の「産地水産物流通調査」によると2019年の年間水揚げ量は39万5300トンで、前年の50万3801トンから激減し、約8割の水準にとどまった。そうした中でサバ缶ブームが続き、生産量が増え続けている。このため原料となるサバの価格が高騰してしまった。

2018年の平均は1キログラムあたり96円だったが、2019年は105円に9%上昇した。大手水産会社の関係者はメディアの取材に対し取引値は「1キログラム140円まで上がった」と語っている。

その結果、国内ではサバ缶が2018年6月、2019年3月と2度にわたって値上げされた。影響はそれだけではない。アフリカ向けの冷凍サバの価格も上昇し、輸出が落ち込む事態を引き起こしたのだ。ナイジェリア向けの輸出量は2018年の5万1153トンから2019年は4万5903トンへと大きく減らした。前年の9割の水準だ。

ところが輸出額は前年よりも2億1000万円ほど増えている。それだけアフリカ向けのサバの価格が上がったということだ。この状況が続けばアフリカ諸国のサバ需要は、日本よりも価格が安い国に変わっていくかもしれない。

今後の課題は国際資源としてのサバの資源管理を徹底していくことだ。2019年には資源管理の優等生と言われていたノルウェーに対してさえ、サバの獲りすぎだということで海洋管理協議会が国際認証を一時停止するといった動きがあった(ノルウェーを含む北大西洋8国にまたがる4つのサバ漁業に対する認証)。

日本についても海洋学者らはサバの漁業枠設定の甘さなどを指摘し、警鐘を鳴らしている。資源管理を徹底し、魚を守っていかないことにはサバ缶ブームも輸出もいつかはついえてしまうことになる。

山田 稔 ジャーナリスト

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やまだ みのる / Minoru Yamada

1960年生まれ。長野県出身。立命館大学卒業。日刊ゲンダイ編集部長、広告局次長を経て独立。編集工房レーヴ代表。経済、社会、地方関連記事を執筆。雑誌『ベストカー』に「数字の向こう側」を連載中。『酒と温泉を楽しむ!「B級」山歩き』『分煙社会のススメ。』(日本図書館協会選定図書)『驚きの日本一が「ふるさと」にあった』などの著作がある。編集工房レーヴのブログも執筆。最新刊は『60歳からの山と温泉』(世界書院)。

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