「越権行為」からイノベーションが生まれる 富士フイルムのプロデューサー、戸田雄三氏に聞く(下)

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三宅:製品がいかに均一かということですね。

戸田:僕らが製造で苦労したのは、感度をつねに一定にすることでした。感度は後から染料を加えることによって調整できます。サングラスの色合わせをするような感じです。でも富士フイルムは調整を許さないのです。感度が合わない原因があるはずだ、最初から感度が合っていなければ、お客さんの信頼は得られない、という考え方です。確かに染料で調整すると、現像の段階などで変化してしまうのです。

三宅:根本に立ち返れということでしょうか。

戸田:そう、それが富士フイルムの文化です。調整は許さない。原理化しないといけない。

人は人を育てない。課題が人を育てる

三宅:戸田さんの会社人生はチャレンジの連続だったと思います。つらかったこと、大変だったことがあれば、お聞かせください。

戸田:ないですね。ないと思いたいのかもしれないな。よく自分の言うことを理解してもらえないとか、自分がチームの中でうまくいっていないと訴える人がいるけど、人は理屈や考え方では説得できません。新しいことをするときには新しい理屈があり、それを言葉で説明しますが、単なるコミュニケーションで人を説得することは不可能です。やはり実例を見せないと。Show good exampleです。だから、新しいことをやるときは、実例を示せるまで頑張ります。けっこうなエネルギーが必要ですから、つらいし難しいですね。

三宅:想いや言葉だけではダメで、実例を見せて新しいことを進めていく。

戸田:僕は製造にいたとき、上司には2種類しかいないと思っていました。僕のことをやさしくかわいがってくれる上司と、態度が悪いと文句を言う上司。僕を的確に評価してくれる上司はいませんでした。

ではどうするか。上司に合せて仕事をしていたら潰れる、だったら自分が自分の上司になろうと思ったのです。たとえば、採算性が悪いから10%のコストダウンをするように命じられたら、僕は「わかりました」と答えて、自分の中では20%に設定していました。それを公にすることもありました。いつか必ず実証してみせると思ってやっていました。このときは大変でしたね。僕はホラを吹いてもうそはつかないのです。

三宅:今後、戸田さんが見せたい実例はなんでしょう?

戸田:やはり健康医療産業の革新ですね。これはわれわれがいっぺんにできることではないけれど、今までの経験を生かして、いい実例を提示していきたいと思います。

三宅:これからチャレンジをしようとしている企業人にメッセージはありますか?

戸田:上司に10やれと言われて10やるのではなく、会社や組織の課題を超えたところに自分のターゲットを置いてみてください。自分の目標を組織のデマンドより高く置くことによって、いろいろ考えて動くようになります。どうすれば達成できるのか、暗黙のコンセンサスで上司は10と言っているけれど、それはなぜなのか、変えるならどこを変えるのか。越権行為もあるだろうし、少し大変だけど、気持ちいいじゃない。

三宅:組織の奴隷からは解放されますね。

戸田:そういうこと。別に組織の奴隷でもいいんだけど、その場合はそのときは楽でも、あとで振り返ったときに、組織にとっても埋没した通行人Aで終わってしまうのです。

三宅:しかし戸田さんのような攻めの才能は、育めるものなのでしょうか?

戸田:育めますよ。自分でも部下でも課題を与えればいい。人が人を育てるんじゃなくて、課題が人を育てるのです。

(構成:仲宇佐ゆり、撮影:大澤誠)

三宅 孝之 ドリームインキュベータ執行役員

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みやけ たかゆき

京都大学工学部卒業、京都大学大学院工学研究科応用システム科学専攻修了(工学修士)。経済産業省、A.T. カーニー株式会社を経てDIに参加。経済産業省では、ベンチャービジネスの制度設計、国際エネルギー政策立案に深く関わった他、情報通信、貿易、環境リサイクル、エネルギー、消費者取引、技術政策など幅広い政策立案の省内統括、法令策定に従事。DIでは、産業プロデュース事業を統括し、環境エネルギー、まちづくり、医療などを始めとする様々な新しいフィールドの戦略策定及びプロデュースを実施。また、個別プロジェクトにおいても、メーカー、IT/通信、金融、エンタメ、流通、サービスなど幅広いクライアントに対して、新規事業立案・実行支援、マーケティング戦略、マネジメント体制構築など成長を主とするテーマに関わっている。

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