疑問を呈する人々はこの研究を根拠として、新型コロナウイルスが4年前の実験によって改変されたウイルスであり、実験施設から流出したという可能性について論じている。
彼らはまた、『ネイチャー』の経験豊富な記者デクラン・バトラー(Declan Butler)が2015年に書いた記事や、パスツール(Pasteur)研究所のウイルス学者ウェイン・ホブソン(Simon Wain-Hobson)がかつて述べた「もしウイルスが流出したなら、その拡散する経路は誰にも予測できないだろう」という言葉を引き合いに出している。
その後、この都合よく背景と前後の因果関係を切り取られた情報は、ソーシャルメディア上で広められた。石正麗と彼女のチームを「実名で通報」したり、直接顔を合わせて問いただしたりする人々さえいた。ここで述べておかなければならないのは、それらの疑惑を呈した人々はいずれもウイルス関連分野の専門家ではなかったということだ。
財新記者は『ネイチャー』のバトラー記者が書いた上記の記事を調べてみた。実際には、バトラー記者の記事は中立的な立場で、彼は異なる2つの見方を両方とも引用しており、「機能獲得性研究」が引き起こした議論について詳述している。
ウイルスの「機能獲得性研究」とは、実験施設の中で病原体が持つ毒性や拡散の容易性を増強するか、またはウイルスの宿主の範囲を拡大し、ウイルスの特性を研究し、新しい伝染病として評価する研究手法を指す。
バトラー記者の記事によれば、ある専門家はこの種の研究に反対している。例えば、ウェイン・ホブソンがそうした実験に反対する理由は、この種の研究には何ら有益な点がなく、コウモリの体内に潜む野生のSHC014ウイルスが人間にもたらすいかなるリスクをも明らかにするものではないと考えているからだ。
アメリカのラトガース大学に所属する分子生物学者であり、ワクスマン微生物研究所の実験施設主任でもあるリチャード・エブライト(Richard Ebright)は、「この種のプロジェクトのもたらす唯一の成果は、実験施設の中で新しい非自然的なリスクを作り出すことだ」と考えている。ウェイン・ホブソンとリチャード・エブライトは共に「機能獲得性研究」を長年にわたって批判している研究者だ。
報道によれば、アメリカの国立衛生研究所(NIH)は、2013年10月から、この種の研究に対するすべての援助を一時的に停止しているが、この実験が当該機関による審査期間中は継続されることを許した。この種のプロジェクトには研究を停止させるほどのリスクが認められないとNIHが結論を下したからだ。
実験は病原体を識別する助けになる
だが、この種の研究には確かに有益な点があると考える学者もいる。例えば、研究組織「生体健康連盟」の総裁であるピーター・ダザック(Peter Daszak)は、この種の実験が取り急ぎその危険性を考慮しなければならない病原体を識別する助けになり、いっそうの関心を集めることができる、と考えている。彼は例を挙げて、もしこの研究が行われなかったなら、SHC014ウイルスは今でも脅威とは見なされていなかっただろうと述べている。
科学者たちはこれまで、分子の水平モデリングとそのほかの研究に基づいて、このウイルスが人には感染しないと考えていたが、実験によって初めてこのウイルスがすでに人のレセプターと結合できることが明らかにされたのだ。ピーター・ダザックはかつて石正麗のチームと一緒に協力して科学研究を行ったことがある。
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