飲料メーカー続々参戦、過熱トクホに迫る試練 開発競争が続くトクホに“ライバル”の出現も

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飲料メーカーにとって、トクホ商品は開発費と許可までの時間がかかるものの、国のお墨付きを得て販売できる。そのため、健康を気にする消費者に選んでもらいやすい。トクホの許可品目数は今年2月末時点で1101。11年末と比べ1割以上増加し、中でも血糖値や中性脂肪・体脂肪に関連した許可品目が大きく増えている。

再び盛り上がるトクホだが、問題点もある。国民生活センターに寄せられる消費者からの相談には、「『1年間飲んでいるのに血圧が下がらない』など、トクホの効果に関するものも多い」(相談情報部の伊藤汐里氏)。

「消費者がトクホをまだ正しく摂取できていない」と指摘するのは、国立健康・栄養研究所健康食品情報研究室の千葉剛室長だ。「商品のキャッチコピーに目を奪われ、摂取時に必要な量、摂取の仕方がよく見られていない傾向がある」(千葉氏)。

たとえば、冒頭のからだすこやか茶Wは、1回の食事ごとに1本(350ミリリットル)、1日3本飲むことで保健効果が期待できる。飲む本数が少なかったり、食事中以外に飲んだりした場合、表示されている効果は得にくい。

表示規制を緩和へ

さらに“ライバル”の登場という危機も生まれている。政府は昨年6月に発表した成長戦略で、食品表示の規制緩和を打ち出したのだ。

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トクホの「機能性表示」

現在、保健効果をPRできる「機能性表示」が認められているのは、トクホとサプリメントなど栄養機能食品のみ。それを一般食品でも国の審査なしで表示できるようにする方向で、議論が進んでいる。早ければ14年度中にも実施する見通しだ。政府は規制緩和によって、健康食品市場を拡大し、医療費の抑制につなげようとしている。

一般食品でも機能性表示ができるようになれば、食品メーカーにとっては追い風になる。一方で、トクホと同じような効果を宣伝する商品が乱立し、消費者は正確に判断できなくなる可能性がある。

国の審査を受けずに保健効果が表示できることについて、懸念もある。消費者庁に設置された表示規制緩和の検討会が参考にしているのは、米国で実施されているダイエタリーサプリメントの表示制度。「表示は米国食品医薬品局(FDA)により評価されたものではない。この製品はいかなる病気の診断、処置、治療、予防も目的としたものではない」と免責表示をすれば、事前の許可は必要なく、発売後30日以内にFDAに届け出ればいい仕組みだ。

ところが、米保健福祉省総監査室は12年に、体重減少および免疫機能をうたう127製品の表示の適切性について、調査結果を公表。それによると、事業者が提出したヒト研究557件のうち、有効性の実証が十分なものは一つもなかった。7%の製品は免責表示もなかった。

こうした点に対し、消費者庁食品表示企画課の松原芳幸・食品表示調査官は「米国の枠組みをそのまま日本に持ってくるわけではない。消費者が誤認することなく、自主的かつ合理的に商品を選択することができる制度にしたい」と話す。

国の審査がないと行き過ぎた表示が行われ、トクホに悪影響を与える可能性もある。消費者の信頼をどう確保するか。制度設計の工夫が求められる。

週刊東洋経済2014年3月15日号〈3月10日発売〉核心リポート03)

田嶌 ななみ 東洋経済 記者

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たじま ななみ / Nanami Tajima

2013年、東洋経済入社。食品業界・電機業界の担当記者を経て、2017年10月より東洋経済オンライン編集部所属。

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二階堂 遼馬 東洋経済 記者

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にかいどう りょうま / Ryoma Nikaido

解説部記者。米国を中心にマクロの政治・経済をカバー。2008年東洋経済新報社入社。化学、外食、ネット業界担当記者と週刊東洋経済編集部を経て現職。週刊東洋経済編集部では産業特集を中心に担当。

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