東京・神津島が「星空の世界遺産」に挑むワケ 国内2例目、環境配慮型の新しい街おこし

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それが現在では、経営者の高齢化もあり、神津島のホテルを含めた宿の数は40軒程度に減っている。受け入れ体制の整備は今後の課題だが、仮に観光客が6万人になっても、通年観光になれば、現状でも受け入れは可能だ。

一足先に2018年に認定された西表石垣国立公園でも、観光客は目に見えて増えている。星空観光を実施する旅行会社は、1社から20社程度に拡大。2014年から星空ツアーを手掛ける上野貴弘さんは、「認定後に参加者が急増した。うちのツアーの参加者は、当初から6倍の年およそ5400人になった」と語る。「星空を目的に石垣島を訪れる人が増えた。石垣島はリピーターが多かったが、新規客の獲得につながっている」(上野さん)。

個人が暮らしを変える必要はない

神津島では6月の申請に向けて、住民向けの説明会や講演会などを開催中だ。住民の不安は、生活にどれだけ影響が出るかだが、前田村長は「個人が暮らしを変える必要はない」と力説する。

街灯の改変は過剰な照明をやめるだけであり、街灯数をむしろ増やしたり、人感センサーを使ったりして、暮らしに必要な明るさは確保する。条例による屋外照明の夜間禁止も、もともと島にコンビニが1軒もない神津島なら、スムーズに移行できる。1月8日に開かれた1回目の住民説明会では、反対の声は出なかったという。

実は、星空保護区の先駆けである西表石垣は、いまだ暫定認定にとどまっている。街灯の入れ替えに時間がかかっているためだ。指定エリアの規模の違いはあるが、西表石垣に比べ、神津島の取り組みはとても早い。

神津島の冬の星空。「冬の大三角」がはっきりと見える(写真:神津島村)

神津島が6月の申請にこだわっているのは、今夏に開催される東京五輪が念頭にある。「期間中は多くの外国人客が東京に来る。そこで星空の街として神津島をアピールしたい」(前田村長)。実現のためには、申請費を含めて2年間で約6000万円が見込まれる事業費の確保と、本当の意味での住民の協力がポイントになりそうだ。

東洋大学の越智准教授は「日本は間違いなく、光大量消費社会。明るければいいという先入観がある」と指摘する。環境配慮型社会の必要性が叫ばれる中で、人々の価値観も変わりつつある。神津島の取り組みは、今後の地域のあり方に一石を投じることになるかもしれない。

並木 厚憲 東洋経済 記者

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なみき あつのり / Atsunori Namiki

これまでに小売り・サービス、自動車、銀行などの業界を担当。テーマとして地方問題やインフラ老朽化問題に関心がある。『週刊東洋経済』編集部を経て、2016年10月よりニュース編集部編集長。

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