東京・神津島が「星空の世界遺産」に挑むワケ 国内2例目、環境配慮型の新しい街おこし

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その目的として挙げられるのが、光害の抑止だ。光害とは「過剰な照明が引き起こす悪影響のこと」(越智准教授)。過剰な照明はエネルギーの浪費となり、CO2排出の増加や地球温暖化につながるおそれがある。生態系や人体への影響も懸念される。

神津島村を代表する魚であるタカベ。海水温度の上昇で、近年水揚げ量が急速に減っている。こうしたことも光害抑止に取り組むきっかけになった(写真:神津島村)

生態系の影響としてよく知られるのが、ウミガメや渡り鳥への影響だ。ウミガメは照明が明かるすぎると、親ガメが産卵できず、仮に産卵できても、生まれた赤ちゃんガメが海へ帰れなくなる。

星や月の明るさで方向を認識する渡り鳥は、人工照明によって方向感覚を失い、やがて力尽きる。過剰な照明の犠牲になる渡り鳥は、北米大陸だけで年数億羽に及ぶとする研究もある。

人体への影響は、ブルーライト(青色光)が引き起こす体内時計の変化として知られる。LED照明から出る青色光は波長が短く、太陽光に近い。そのため、人の体内時計が昼間だと勘違いし、不眠などを引き起こすと言われている。

つまり、星空保護区の厳しい基準には理由があるのだ。単に星空を保護するだけではなく、光害抑止という目的がある。そのためには地域全体での取り組みが不可欠で、「自治体が本気にならないと取得は難しい」(越智准教授)。

「通年観光」へ一歩

取得が難しい分だけ、期待される効果も大きい。真っ先に思い浮かぶのが、観光業の活性化だ。星空は1年中鑑賞可能だが、とくに秋冬が美しいといわれる。星空観光は、一般に観光業の閑散期と言われる秋冬の客数増につながる。しかも夜の観光だから、宿泊につながるメリットもある。

神津島の観光客数は現在年約5.5万人。新海誠監督のアニメーション映画『天気の子』の主人公が神津島出身という設定だったこともあり、知名度向上などでその数は堅調に推移している。だが、神津島の観光客は、夏と春に集中している。星空観光が定着すれば、秋冬の観光客が増加し、通年観光が実現する。前田村長は、「星空観光をきっかけに、観光客数年6万人を目指す」と語る。

今から50年ほど前の離島ブームの頃には、神津島は観光客でごった返していた。ピークの1965年には、その数は年約10万人に及んだ。代表的な海水浴場である前浜に売店を出せば、3年で家が建つと言われた。当時は200軒近い民宿があり、ひと夏で年間収入のほとんどを稼いだ。

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