東京・神津島が「星空の世界遺産」に挑むワケ 国内2例目、環境配慮型の新しい街おこし

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星空保護区認定のハードルは低くない。認定基準は大きく3つある。1つ目が夜空の「暗さ」。天の川を1年通してはっきりと確認できる暗さが必要になる。正確には、必要なのは暗さではなく、空の「黒さ」で、夜も街が明るい東京の夜空は青いのだという。この点、神津島はもともと十分な空の「黒さ」を持っている。

2つ目が屋外照明の基準。ポイントは2つある。1つが照明の光の色が白ではなく、電球色であること。これは「色温度」という基準で3000K(ケルビン)以下でなければならない。昼白色はおよそ5500Kで、基準から大幅に外れてしまう。もう1つが光の角度で、光が上空に漏れないように、街灯の角度が地面と水平でなければならない。

日本の街灯では基準を満たさない

実は日本に設置されている街灯では、ほとんど基準を満たさない。近年、街灯は急速なLED化が進んだが、そのほとんどが白色LED。白色は熱効率が電球色よりわずかに高く、省エネにはつながるが、明るすぎるのだ。また日本の街灯は照射面積を増やすために、角度がついていることが多い。こうしたことから、基準を満たすためには、ほぼすべての街灯を取り替えなくてはならない。

神津島の集落。集落がコンパクトにまとまっていることも、住民のコンセンサスを得やすい1つの要因になる(写真:神津島村)

神津島でも最大の難所は街灯の取り替えだった。神津島では村全体で約580基の街灯がある。それらをすべて取り替える決断をした。ただ、既製灯では基準を満たさないため、特注品での発注になった。LEDを電球色に交換、灯の角度は地面と水平にし、カサを大きくして光が上空に漏れないようにする。

これら街灯の改変に約5000万円かかる見通しだが、都道は都が負担、村道でも都の補助金を一部活用するなどで、何とかメドが立った。

そして認定基準の3つ目が、地域住民の理解と賛同であり、自然保全の啓蒙・教育プログラムの実施だ。

東洋大学で光害(ひかりがい)について研究し、国際ダークスカイ協会東京支部の代表を兼ねる越智信彰准教授は、「人が誰もいない場所なら、星空がきれいに見えて当たり前。星空保護区は人が住み、行き来する場所で、美しい夜空を保護する地域の取り組みを認定する仕組みだ」と語る。

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