組織が150人超えると急に創造力を落とす理由 規模拡大でも活力を失わない科学的アプローチ

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筆者はこうした「いかれたアイデア」を商品や戦略に高めるには「フランチャイズ」の力が必要と考える。

フランチャイズという用語もバーコール独特のもので、イノベーションに関する先行研究を知る者にとってはわかりにくいが、アターバック=アバナシーらの先行研究の言葉を使えばプロダクト・イノベーションに対するプロセス・イノベーションであり、クリステンセンの言葉では持続的(インクリメンタル)イノベーションのことだと理解すればわかりやすい。すなわち、今ある製品や戦略を改善・改良していく力のことだ。

しかし、バーコールはこのフランチャイズ力がルーンショットを圧殺すると主張する。バーコールが挙げているノキアの事例はわかりやすい。

1970年代ノキアは、ゴム長靴やトイレットペーパーを製造するコングロマリット企業だった。しかし、その後、携帯電話・自動車電話事業に進出し、2000年には世界の携帯電話の約半数を生産し、企業価値は欧州一となった。経営陣はこの成功の秘訣が「常識にとらわれずに、ミスが許される企業文化」にあると大いに喧伝した。

アップルに先駆けたスマホのアイデアがあったのに

しかし、2004年に革新的企業文化を誇っていた経営陣は、社内の少数の技術者たちが提案した「大きなディスプレーと高解析度カメラを内蔵し、インターネットにつながったうえでオンライン・アプリケーションストアを持つ携帯電話の開発」というアイデアを却下した。突飛なアイデアよりも、今ある携帯電話をより高性能で、より安く、より効率的に売り上げるほうがより重要だと判断したのだ。

技術者たちはその3年後に、彼らのアイデアをスティーブ・ジョブズという男が実現したことを知る。ノキアの携帯電話事業は行き詰まり、2013年に売却されてしまった。

バーコールはこうした組織の突然変異を解明するのに、「相転移(phase transitions)」という物理学的な知見を持ち込み、それが文化ではなく構造変化に根ざした問題であることを指摘する。同じ水分子でも、温度という「制御パラメータ」の変化によって「相(phase)」が変わる。温度が0度(閾値)超なら、水分子は活発なエントロピー状態、つまり液体だが、温度が0度以下になると、突然、結合力が高まって氷になり、性質が一変する。

つまり、人材が同じでも組織の相が転移(transition)すると、組織の成員はまったく異なる動きをする。そして、ルーンショットはその境界域に生息し、2つの相の微妙な動的均衡の上にのみ存在しうる。ゆえに、両方の相のバランスをとる「ブッシュ・ヴェイル バランス」が必要であり、制御パラメータ(水分子の場合は「温度」)の精緻化が重要となる。

では、この相転移の科学を組織にどう応用すればいいのか。新しい科学的知見によってその答えを探りつつ本書の本領が発揮されるのが、パート2「突然の変化を科学する」だ。

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