実写版「キャッツ」が世界中で大コケした理由 日本では1位でも焼け石に水にすぎない

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第1の理由は、知名度である。リスクを恐れるメジャースタジオが、今日いちばん重視するのは、観客と作品の距離が近いかどうか。続編、リメイク、リブート、スピンオフ、おもちゃやビデオゲーム、テーマパークの乗り物の映画化が多いのはそのせいだ。

舞台ミュージカル『キャッツ』は、1981年にロンドン、1982年にブロードウェイでデビューして以来、数々の記録を打ち立ててきた。これまでに30カ国、15の言語で上演されているし、「メモリー」は舞台を観ていない人でも知っている名曲である。知名度においては、百点満点と言える。

さらに、製作陣も非常に豪華な顔ぶれだ。監督は『英国王のスピーチ』でアカデミー賞監督賞を受賞し、『レ・ミゼラブル』ではアン・ハサウェイを、『リリーのすべて』ではアリシア・ヴィキャンダーをアカデミー賞「助演女優賞」に導いたトム・フーパー。彼と脚本を共同執筆したのは、『リトル・ダンサー』を書き下ろし、その舞台版『ビリー・エリオット』も手がけたリー・ホール。

2人が組む作品に出ない手はない。もしかしたら自分もこれでアカデミー賞とはいかなくても評価されるかもしれないと、歌に自信のある俳優たちは、まさにこの映画に出てくるゴキブリ軍団のように列をなして押しかけてきた。先に述べたデンチ、マッケラン、スウィフトのほか、ジェニファー・ハドソン、イドリス・エルバ、ジェームズ・コーデン、レベル・ウィルソンなどである。

作品への期待感ばかりが募るが…

そうやって「すごい作品になる」条件がどんどん固まっていくと、スタジオも、ますます今作の成功を信じた。そもそも、あまり口出しをしないのがスタジオの流儀とされているし、これだけ実績がある監督に、これだけの俳優がついてきたとあれば、あえて口を出す必要はない。製作の途中で、「これはヘンじゃないか」と思った人がいたとしても、アーティスティックなプロセスに口を出すなんて何様だと、自制したのかもしれない。

それにCGが多用される今日においては、俳優が最終的なビジュアルがどうなるのかよくわからないまま演技を撮影することは日常茶飯事だ。

現場ではテニスボールを相手に驚いてみせる演技をしたが、完成作を見たらそこにはちゃんと恐ろしいクリーチャーがいて、「ああ、素直に飛び込んでよかった。やはり監督は信じないとダメなんだな」というような経験を俳優の多くがしている。今回もきっとそうなると、彼らは思っていたはずである。

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