実写版「キャッツ」が世界中で大コケした理由 日本では1位でも焼け石に水にすぎない

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「いや、やっぱりこれはおかしいよ」と最初に声を上げたのは、夏に出た予告編に反応した一般人だ。だがその頃には撮影も終わっていて、フーパーは公開日までに映画を仕上げるのに精いっぱいだった。あまりにギリギリの完成だったため、アメリカでは公開の数日後にCGをやり直したバージョンが新たに劇場に送られるという、めったにない出来事まで起きている。

修正前のバージョンでは、デンチの手が人間のままになっていて、結婚指輪まで見えていたそうだ。気づくのが遅かったら、この映画はさらにシュールなものになっていたことだろう。

『キャッツ』の失敗から何を学べばいい?

つまり、これは誰にでも起こりうる失敗だったのである。この例から何か学ぶとすれば、ヒットのための確実なルールは、やはり存在しないということかもしれない。

この作品と対極の立ち位置にあった『ラ・ラ・ランド』の成功も、それを後押しする。当時はまだ駆け出しに近かったデイミアン・チャゼルが書き下ろしたこのオリジナルミュージカルの知名度は当然ゼロ。「しかも、プラネタリウムにいる主人公たちが突然歌い出して空に飛んでいくんだから」と、チャゼルは、投資してくれる人たちを探すうえでの苦労を振り返っている。

たしかに、そう聞いただけだったら、人間が猫を演じるよりももっと奇妙な映画に聞こえるに違いない。だが、チャゼルは、最も共感できる形でそれをやり、見事、観客をその世界に引き込んだのだ。そして、3000万ドルという『キャッツ』の3分の1以下で作られたこの映画は、結果的に、全世界で4億5000万ドル弱を売り上げ、複数のアカデミー賞を受賞した。

映画は人が作るもの。その過程では、すてきなマジックも起こりえるし、逆もまたある。そこを見極めたいと誰もが思うが、それはどんなに研究しても不可能だ。『キャッツ』は残念ながら後者の例になってしまった。

この映画のために、時間と努力をたっぷりつぎ込んだ関係者は今、当然つらいだろう。しかし、「猫に九生あり」という言葉もある。次は別の運命が待ち受けていることを願い、気持ちを取り直して、また新たな作品に挑んでほしい。

猿渡 由紀 L.A.在住映画ジャーナリスト

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さるわたり ゆき / Yuki Saruwatari

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒業。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場リポート記事、ハリウッド事情のコラムを、『シュプール』『ハーパース バザー日本版』『バイラ』『週刊SPA!』『Movie ぴあ』『キネマ旬報』のほか、雑誌や新聞、Yahoo、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。

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