東大ジェンダー学者の戦略的イクメン化計画 育児で男にできないことなんて、何ひとつない

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「授乳は?」という人が必ずいますが、うちはあまり出なかったので、あっという間に2人の役割になりました。

「お母さんは赤ちゃんのおなかが空く頃には胸が張って、自然と目が覚めて、それが母性という本能で」なんていい加減なこと、誰が言い始めたんでしょう? 夜中に子どもが「ピ!」と泣いて、「パ!」と目が覚めるのは、だいたい眠りの浅い私のほうで、夜中の授乳は私になることが多かった記憶があります。

イクメンの本当の幸せ

だから「イクメン」にカチンときたのです。「そんなんで子育てしてるとか言うな!」と。「夫の家事はゴミ出しです」というのと同じかもしれません。あんなのはゴミが移動しているだけで、家事のうちには入りません。

保育所の送迎がなくなった今、家事・育児はだいぶ少なくなりましたが、夕食の担当が基本的に私なので、やはり仕事を早く切り上げることには変わりありません。

もちろん、パートナーが何もしていないというわけではありません。私は朝起きるのが苦手なので、朝食は任せていますし、片付けのできない私のものを、嘆息しながら整理してくれています。

最近は、子どもの教育の手間がかかるようになりました。優しいけどいまいちお勉強のできない小3の息子のほうは彼女の担当。私は悩み多き中1の娘の担当です。

でも、子どもとこんなに長い時間を過ごせるのは、幸せなことだと思います。初めて25メートルを泳いだ瞬間、初めて子どもとスキーができたとき、保育所にお迎えに行くと「パパァ~」と両手を挙げて走って抱きついてきたとき……。

「それがどないしてん?」と言われたらそれまでです。でも、そんな一つひとつのプライスレスな記憶のために生きているのだと、私は思っています。日本の男性にも、本当のイクメンの楽しさをわかってもらいたいと思うのですが。

瀬地山 角 東京大学教授

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せちやま かく

1963年生まれ、奈良県出身。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了、学術博士。北海道大学文学部助手などを経て、2008年より現職。専門はジェンダー論、主な著書に『お笑いジェンダー論』『東アジアの家父長制』(いずれも勁草書房)など。

「イクメン」という言葉などない頃から、職場の保育所に子ども2人を送り迎えし、夕食の支度も担当。専門は男女の社会的性差や差別を扱うジェンダー論という分野で、研究と実践の両立を標榜している。アメリカでは父娘家庭も経験した。

大学で開く講義は履修者が400人を超える人気講義。大学だけでなく、北海道から沖縄まで「子道具」を連れて講演をする「口から出稼ぎ」も仕事の一部。爆笑の起きる講演で人気がある。 
 

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