「英語力」は入社後の環境と努力で何とでもなる 留学やTOEICも不要なグローバル企業の実例

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杉森:英語は入社してからの学習で身に付けたのですか。

C:そうです。社内の英会話クラスにも参加しています。ただ業務を通じて覚えるのがいちばん有効だと思います。専門的な用語などもありますからね。英会話クラス以外に、自費でオンライン英会話を月8回コースで続けていますが、あくまでサポート的な位置づけです。語学力向上のために意識していることは、目の前の業務に全力で取り組むことです。

明治大学商学部3年の松元誠悟さん(撮影:佐々木心)

松元:Cさんにとって会社内の英会話クラスはどう役立っていますか。

C:基本的なことはそこで学びます。そのほかはモチベーション維持です。教室で同僚たちのレベルの高さを見ると、頑張らなくてはならないと思います。同期のAさんもかなり努力したのだろうと思います。もう通訳くらいできるレベルになっているかもしれません。

大亀:日頃からかなり努力されているようですが、その努力が大きな成果につながったことはありますか。

C:入社してからずっと携わっていた製品が最近ようやく世に出たことですね。製品企画や試験をずっとやってきていました。英語で仕様を決めなければならないことなどもあって、結構苦労しました。しかし、努力を継続していると語学を含めて、できることが増えてくるので、やりがいを感じます。

他社からのヘッドハンティングも多い

英弘精機の入社選考では、TOEICのスコアは関係ないし、逆に英語能力だけをPRするような学生は採用しない。入社後にTOEICのスコア上昇を義務づけることもないし、高スコア獲得による報奨金制度もない。英語に関してムチもアメもないのだ。総務担当者は「自然に英語を頑張る環境がありますし、先輩が後輩にていねいに教える社風です」という。

また、海外営業にいきなり1人で行く、ということはない。まずは海外拠点や仕入先の海外メーカーの展示会や研修会に参加する。ここで英語も含めた経験を積み、業務全般を担当できるようになってから、海外営業を担う。英語学習は自主性が重んじられているものの、業務に関しては育成のためのプロセスがある。

今回、社長以外の社員の氏名を掲載しなかったのは、最近他社からのヘッドハンティング攻勢が激しくなっているからだ。記事に氏名が出ると、他社から強引な転職勧誘が行われる可能性があるため、顔写真も掲載しなかった。ヘッドハンティングが多いということは、英弘精機が優秀なグローバル人材を育成している証明でもある。

入社試験においてTOEICスコアで足切りをしたり、入社後は強制的に英語研修を課す企業が少なくない。だが、長谷川社長は「英語を使って仕事をしたい人ではなく、科学に関心があり弊社の業務に興味がある人を採用したい」という。業務が重要なのであって、英語は業務遂行のための道具にすぎない。大学に入学する英語力があれば、あとは環境と努力で何とかなるようだ。

グローバル企業といってもいろいろな企業がある。もし、入社したいグローバル企業があるのならば、現在の英語力や留学歴の有無を気にすることなく、チャレンジすべきだろう。

田宮 寛之 経済ジャーナリスト、東洋経済新報社記者・編集委員

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たみや ひろゆき / Hiroyuki Tamiya

明治大学講師(学部間共通総合講座)、拓殖大学客員教授(商学部・政経学部)。東京都出身。明治大学経営学部卒業後、日経ラジオ社、米国ウィスコンシン州ワパン高校教員を経て1993年東洋経済新報社に入社。企業情報部や金融証券部、名古屋支社で記者として活動した後、『週刊東洋経済』編集部デスクに。2007年、株式雑誌『オール投資』編集長就任。2009年就職・採用・人事情報を配信する「東洋経済HRオンライン」を立ち上げ編集長となる。取材してきた業界は自動車、生保、損保、証券、食品、住宅、百貨店、スーパー、コンビニエンスストア、外食、化学など。2014年「就職四季報プラスワン」編集長を兼務。2016年から現職

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