東京のVIP向けクリニック「ずさん経営」の末路 民間病院は3割赤字、開業すれば安泰ではない

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組織としての統制・管理が緩い医療法人も多い。「ガバナンスがまともに機能している民間の中小医療法人はほとんどないのでは」(ある医療機関関係者)ともいわれるほどだ。

ガバナンスの欠如で倒産に追い込まれたのが、東京・品川区で「大崎病院 東京ハートセンター」を経営していた冠心会だ。2019年8月に負債総額42億円を抱え民事再生法の適用申請を行った、2019年では最大の医療法人の倒産劇だ。

カリスマ心臓外科医も在籍していたが

冠心会は1994年創業。2005年に開業した東京ハートセンターのベッド数は88床で、24時間の救急医療にも対応していた。人気医療漫画『ブラックジャックによろしく』の登場人物のモデルになった心臓外科医が在籍するなど名医ぞろいで、知名度が高い病院だった。

だが、建物の保有者から訴訟を起こされたことで、2018年末から家賃の滞納が続いていたことが発覚。実は2015年度から債務超過に陥っていた。2019年に入り、資金繰りが悪化した背景には理事長夫人が法人資金を私的に流用していた疑惑のあることが、一部の週刊誌で報じられた。

経営難や信用不安によって、医師や看護師の退職が相次いでいたという。こうして病院として機能不全に陥っていった冠心会。債権者である建物の保有者が民事再生法の適用を申請し、破綻となった。なお東京ハートセンターは、大田区で東京蒲田病院を経営する「森と海 東京」がスポンサーとなり、診療を継続。新しい体制で再建を図っている。

診療報酬の伸びが抑えられる中で、残業規制によって医師や看護師の人件費は上がる一方だ。都市部では病院や診療所同士の競合、そして地方では医師の確保の困難さから、医療機関の経営は厳しさを増している。これまでのように開業しさえすれば経営が安泰という時代は終わりつつある。医療機関でも経営力が求められるようになっているのだ。

『週刊東洋経済』1月11日号(1月6日発売)の特集は「病院が壊れる」です。
石阪 友貴 東洋経済 記者

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いしざか ともき / Tomoki Ishizaka

早稲田大学政治経済学部卒。2017年に東洋経済新報社入社。食品・飲料業界を担当しジャパニーズウイスキー、加熱式たばこなどを取材。2019年から製薬業界をカバーし「コロナ医療」「製薬大リストラ」「医療テックベンチャー」などの特集を担当。現在は半導体業界を取材中。バイクとボートレース 、深夜ラジオが好き。

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