お金で長い人生に困らないための大鉄則10選 貯蓄と支出を計画的に、運用は合理的に
次に注目すべきは報告書の構成だ。
近年の運用商品マーケティングにおいては、(A)「人生100年時代」などと長寿化を指摘し→(B)「資産寿命」が生物寿命より前に尽きる場合を心配させて→(C)資産形成のための「投資」の必要性を説き→(D)「運用商品」の勧めに至る、というパターンが多用されている。
報告書の構成は、この(A)から(C)までの流れに印象が近いというのだ。
著者は報告書が出た時点で、「この報告書は、金融商品のマーケティングに徹底的に利用されるだろう」と憂慮したという。そしてその予想は、麻生大臣が「炎上マーケティング」を盛大に盛り上げたことによって、思った以上の規模で実現しつつあるというわけだ。
金融マーケティングとの関連においては、報告書に4つの気になる表現があったそうだ。「人生100年時代」「資産寿命」「多様なニーズ・多様な商品」「ワンストップ・サービス」の4つには、警戒する必要があるというのである。
まず「人生100年時代」は、現在の金融機関が大好きなフレーズ。寿命が伸びていることを強調し、老後のお金が足りなくなることへの不安を喚起できる都合のいいキャッチフレーズだということだ。
「資産寿命」も、人生100年時代とセットで使われやすいことばで、合わせて使うと老後の金の不安を強く喚起することが可能になる。
「多様なニーズ・多様な商品」は魅力的にも思えるが、人の置かれた状況やタイプによって、選択すべき運用商品が多様に変化するということは考えられない。現実には、選ぶに値する運用商品はせいぜい数種で、世にある運用商品の大半が「誰にとっても」不要かつ不適切だというのだ。
最後の「ワンストップ・サービス」は年金、住宅ローン、相続対策、保険、資産運用などのお金の問題を一箇所で解決できるサービスを指す。便利そうなイメージがあるが、実際には医療の世界における「セカンド・オピニオン」から遮断されたような状態で営業攻勢をかけられるのが実態だという。
年金支給額が実質的に縮むことはあっても
報告書の内容を公的年金への不安につなげて批判しようとする動きがあったものの、それは適切ではないそうだ。なぜなら報告書には、公的年金制度の持続性に疑問を呈する箇所はひとつもないから。
また、批判する人が口にする「年金は100年安心」とは年金財政の持続性が保たれることの表現で、年金だけで個人の老後費用がすべて賄えるという意味ではない。したがって、「100年安心」を曲解して議論するのは不毛だという。
公的年金は、加入者が自分の積み立てておいたお金をあとから受け取る方式ではなく、将来の保険料と国庫負担、そして積立金の取崩しを財源として年金が支給される仕組み。つまり日本という国が連続性を持って続いている限り、将来の支給額が実質的に縮むことはあったとしても、破綻するとは考えにくいというのだ。
報告書の最大の不備は、「自分の数字」で将来の計算をする方法を説明しなかったこと。報告書が示したような「平均」の数字ではなく、「自分の数字」で老後について計算してみることが重要なのだ。
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