アマゾン運営「仕事サイト」の過酷すぎる実態 メカニカル・タークを使って働いてみた
もっとも時給だけが問題なわけではない。ケンタッキー州ルイビルに住むジェーン・ラモント(30)は、コールセンターで働いている。副業としてマクドナルドでも働いていた(時給7.25ドル)が、メカニカル・タークでの仕事に変えたという。
平日は夜7~11時の間、週末は昼間の5~6時間、ターカーとして働き、1日当たりの収入は5ドルだ。稼ぎは「本当に少ない」けれど、ファストフードのバイトよりも自由だからいい、と彼女は言う。制服も着なくていいし、母と一緒に自宅で過ごす自由もあればタスクの合間にビデオを見る自由もある。
ピッツバーグに住むケイティ・ボーム(40)は2017年からターカーとして働いている。夫は糖尿病を患っているが、失業して医療保険を失ってしまった。ボーム自身、持病を抱えていて外で働くのが難しいため、メカニカル・タークは命綱のようなものだった。
彼女は週に少なくとも50時間、働いており、1日に最低でも20ドルは稼ぐことを目標にしている(実際にはだいたい30~50ドルを稼ぎ出している)。夫のインスリン代は月に1500ドルに上る。「メカニカル・タークのおかげで、夫が生き延びるために必要な額の約半分を稼げる」とボームは言う。
多くの大企業もメカニカル・タークを利用
アマゾンによればターカーの総数は50万人に上るというが、外部の研究者らによれば実際に仕事をしている数はもっと少ない。ニューヨーク大学のデータサイエンティストでメカニカル・タークについて研究しているパノス・イペイロティスは、ターカーの実数は10万~20万人程度で、つねに数千人が稼働していると推測している。
その大半(専門家らによれば少なくとも4分の3)はアメリカ国内にいるとみられ、2位のインドを大きく引き離している。
メカニカル・タークはもともと、アマゾンが自社の問題を解決するために作ったものだ。2001年に商品リストの重複を減らすツールとして、アマゾンは「特定のタスクの解決に向けてコンピューターを支援する人間を有利に含む機械と人間のハイブリッドなコンピューティング・アレンジメント」の特許を申請している。
メカニカル・タークという名前の元になったのは、その昔、ハンガリーの貴族が作ったからくり人形だ。ひげを生やし、頭にターバンを巻いた人形で、すばらしいチェスの腕前で欧州の人々を驚かせた。だが実は、中に隠れていた生身の人間が磁石で駒を動かしていたのだ。
メカニカル・タークが鳴り物入りで公開されたのは2005年。アマゾンの重役、ピーター・コーエンはこのとき、「(メカニカル・タークが)いかに依頼者にとっては効率アップに、働く人にとっては収入アップにつながるか、市場の力が示してくれるはずだ」と述べていた。
多くの大企業がメカニカル・タークを利用してきた。ニューヨーク・タイムズも、これまでに少なくとも3つのデータプロジェクトで利用している。
社会科学の世界でもメカニカル・タークは大人気だ。学術目的でのメカニカル・タークの利用を支援する企業、クラウドリサーチの創業者、リーブ・リットマンによれば、年に5万件を超える学術研究がメカニカル・タークを利用して行われているという。