アマゾン運営「仕事サイト」の過酷すぎる実態 メカニカル・タークを使って働いてみた
そして奇妙なのは労働者(その大半はアメリカ人)が、そんな仕事をさまざまな事情からやっているということだ。バイクが欲しくて金を貯めている人もいれば、インスリンを買うためという人もいる。借金返済や、退屈な仕事の勤務時間内に時間を有効に使うためにやっている人もいる。
自分の都合に合わせて取り組めて、そこそこの金が稼げる仕事などそうそうないから、という人もいる。障害や社会への不安で家から出られないとか、雇用のほとんどない場所に住んでいるといった事情があれば、メカニカル・タークは、稼ぎは悪くても最善の選択肢と言えなくはないのかもしれない。
フルタイムでメカニカル・タークの仕事をしている人も多い。2016年にピュー・リサーチセンターが約3000人のアメリカ人ターカーを対象に行った調査によれば、4人に1人が収入の大半もしくはすべてをメカニカル・タークで得ていると答えた。ちなみに時給に換算した報酬は5ドル未満と答えた人は全体の半数を超えた。
表向きのギャラが安いのは言うまでもないが、実際の支払額がさらに低くなることも珍しくない。メカニカル・タークの依頼者たちがターカーをいい加減に扱っており、やりたい放題状態なのはよく知られた話だ。
ターカーたちは少額の支払いをめぐり、依頼者と戦うために貴重な時間を割いている。10セント相当のタスクが不当にリジェクション(承認拒否)されたとか、60セントの報酬が踏み倒されたとか……。依頼者が用意した記入票の不備で記入したタスクを送信できず、それにかかった時間が無駄になることもある。「10分間」で済むはずの調査が30分かかっても終わらず、中断せざるをえなくなったり……。
ターカーたちはネットの掲示板で恐ろしい体験を共有し、互いに注意喚起を行っている(最近の例では、『予算が下りなかったという理由で、 0.5ドルのHITが承認拒否された』といった話が聞かれた)。また、ターカーが運営しているサイト「ターコプティコン」にも手厳しいレビューが集まっている(『(依頼者は)リジェクションのボタンを不公平かつ手当たり次第に使っている』)。
運営元のアマゾンでさえ傍観
ターカーが受け取る報酬の額は、学術的な議論のテーマにもなっている。昨年、発表された論文では、数千人のターカーが行った数百万件のHITを分析。タスクを探すのに使った時間と、金がもらえなかったタスクに要した時間も入れると、ターカーの時給の中央値は1.777ドルだったという。私のような報酬が最低水準の仕事を請け負う駆け出しターカーの比率が高かったのかもしれないが――。
また論文によれば、アメリカ連邦政府が定める最低賃金(時給7.25ドル)以上稼いでいる人は全体の4%にすぎなかったという。
ところが運営元のアマゾン(世界最大のテクノロジー企業だ)は、傍観の姿勢をいっさい崩していない。依頼者にだまされたとターカーから苦情が出ても、アマゾンは介入を拒む。依頼者が別名義を使って追跡を逃れるという状況を許しているのはアマゾンなのにもかかわらずだ。
アマゾンは、もっと高い報酬を義務づけてほしいとのターカーの願いも無視している。手数料として17~50%に相当する額(報酬が1セントのHITの場合、依頼者はアマゾンにも1セント払わなければならない)を徴収しているにもかかわらずだ。