残業減らす働き方の功罪をとことん考えてみた 給料がその分減らず逆に増える枠組みも必要だ
真山:残業をもっと減らしたいとお考えですか?
山田:私は、そうは思いません。私は、「働いてなんぼ」というタイプですし、私たちの業種はやらないと仕事にならないのです。
桂 吉弥(以下、吉弥):残業を減らしている企業の従業員からは、「もっと仕事をしたい」「残業が減ると生活に困る」という声もよく聞きます。
山田:「技術力を高めたい」という考えを持っているケースが大半です。仕事中に技術を身に付けることができれば理想ですが、実際は品物で練習するわけにはいきません。そうなると、やはり残って練習する必要があります。そこにジレンマがありますね。
真山:働く意欲が旺盛な人や、十分に修行したい人、たくさん稼ぎたい人には、その気持ちに応えるべきだと思います。そもそも、発注主がもっとしっかりとした工費を支払う必要があるでしょう。「働かない改革」をやるのであれば、まずは日本の工場の構造上の問題に向き合わなければなりません。
吉弥:業種や年齢、家族構成などによって「働き方改革」の考え方は異なりますよね。
真山:残業しないで仕事を早く終えられた人には給料を高くしたり、残業した代わりに早く帰る日を設けるなど、さまざまな方法が考えられるはずです。何でも平等にすべきという日本の文化が悪い影響を与えている部分もあります。個々で考えや環境が違うからこそ、経営者が個人の思いを尊重して裁量する姿勢が大事です。
運輸業界で画期的な仕事の見直し
吉弥:「効率化」だけが労働時間削減の策ではありません。会社が定めた労働時間を超える「所定外労働時間」が長い業種1位は、ダントツで「運輸業・郵便業」です。中でも、大型トラック運転手の所定外労働時間は、年間で全職業平均の2.6倍というデータもあります。
「渋滞で計画どおりに運転できない」「サービスエリアの駐車場が満車で休憩場所を探すのに時間がかかる」「荷物を取りに行ったら順番待ちで、やっと積めると思ったら荷物の準備ができていない」「荷物を降ろす人がいなくて自分で降ろしたり陳列もしたりしなければならない」。現場の運転手さんからは長時間労働のさまざまな原因を指摘する声が挙がっています。
渡邊:周りの環境や取引先の都合が大きく影響しているのですね。
吉弥:そんな運輸業界の仕事の見直しを、データを活用して長時間労働の是正に挑んでいるのが松岡弘晃社長率いる富士運輸です。
渡邊:松岡社長はトラックの運転手が長時間待たされていたことを知り、どのような対策を考えたのでしょうか。
松岡 弘晃(以下、松岡):最大の原因は、実際に発注している人と現場の間で連絡が取れていないため、トラックが長時間待たされてしまい、すべてが拘束時間になってしまうことです。
私たちはデータに基づいて、長時間待たされているという事実をすぐにお客さまに電話をして、改善してくださいと伝えます。1300台全車両の動きがわかるデータを活用すれば、説得力が強く、荷主も納得してくれやすいのです。
私たちは仕事をいただく側なので、お客さまになかなかモノ申すのが難しく、我慢していた時期もありましたが、最近はしっかりちゃんとお伝えするようにしています。95%ぐらいのお客さまが聞き入れてくださっています。中には「それはどうしようもないから我慢してくれ」と言われることもあるのですが、その場合に取引をお断りしたケースもあります。