残業減らす働き方の功罪をとことん考えてみた 給料がその分減らず逆に増える枠組みも必要だ

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真山:流通の肝である“時間”を大事にし、無駄を省いていく取り組みは、業界にとってプラスになるはず。クレームとして訴えるのではなく、みんなで改善していくと発想を変えられるとよいですね。

松岡:私たちのように、自社でシステムを開発している運輸企業はほとんどありません。中小の同業者は、まだまだアナログが多くて、実際に何時間待っているとか、ドライバーがどんな状態か管理されていないケースが多いです。

渡邊:どのくらいの成果が出ているんでしょうか?

公開収録の観覧者から意見を募る場面(写真:NHK大阪放送局)

松岡:7年前に300時間を超えていた1カ月の平均拘束時間は240時間ほどと、およそ2割減りました。ほかにも荷主が行うはずで、本来は契約外の作業である荷物の積み下ろしが、いわゆる「サービス労働」になっていたところを改善していただくように求めました。これもデータをもとに勤務時間の長い運転手に聞き取りを行って明らかになったことです。

真山:実際に改善され成果はでていますか?

松岡:ここ2年くらいの間で、かなり改善されてきていますね。荷造りや荷下ろしなどの荷役は荷主が雇って行い、運転手は運転に専念する「荷役の分離」を明確にする荷主が増えてきました。昔はドライバーが、荷物を積むところから下ろすところまで、下手すれば、倉庫の中の整理をさせられたこともありました。「ごみを持って帰れ」とおっしゃるお客さまもいらっしゃいました。

「運ばせてあげている」と思っている

真山:日本では、お金を出す人がいちばん偉いと考える風潮があります。自分の荷物を「運んでもらっている」のではなく「運ばせてあげている」と思っているから、そういう対応になってしまうのでしょうか。

松岡:やはり仕事をいただくという意味で私たちは立場が弱いですから、お客さまの言いなりになっていたというのが正直なところですね。

真山:契約外の仕事を断れないまま、サービス労働が当たり前になっていたのですね。松岡さんの会社は成功例ですが、同業者の間で評判はいかがですか。

松岡:NTTドコモさんが私たちの開発したシステムを販売してくださっています。実際に多くの運送会社にシステムが入り、業務改善が進んでいるようです。

吉弥:最後に登場いただくのは、儲けよりも従業員の働きやすさを大事に考えたビジネスモデルをつくったminittsの中村朱美代表取締役です。

渡邊:お店のメニューが、牛肉を使ったお寿司の定食など、3種類のみで、1日の売り上げが100食に達成したら営業を終えるというレストランを京都で営んでいらっしゃいます。経営方針を教えてください。

中村 朱美(以下、中村):経営者も従業員もみんなが幸せと思える働き方をしながら利益を得るという働き方を実践することです。通常ならたくさんお客さまが来てくれると利益が出てうれしいのですが、飲食店はお客さまが多くなるほど、従業員の給料や待遇、勤務時間は変わらないのに、忙しく大変になってしまうことも少なくありません。私は従業員全員が「夕食を家族で食べる」ことを目指しています。

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