朝8時10分から夕方6時まで、1日8時間授業の日が週に3日はあったという。おまけに部活動も全員参加。
「部活は週に2日だけでしたが、授業時間内の2コマ分が当てられているため、必然的に全員参加になるんです。だから結局ほとんどの日が8時間授業です」
片道1時間半の通学に、これだけの授業、当然ながら宿題もある。「高校受験がないから楽なのよ」と言われて挑んだ中学受験だったのだが、気がつけば地元の中学に上がった周りの友達よりも苦労をしているように思えた。
「みんなが遊んでいたときも、僕はずっと勉強をしてきたのに、なぜ自分だけこんなに勉強をしなくてはならないのか……」
言葉にできない気持ちだけが賢雄君の奥深く、まるで根雪のように蓄積された。入学から1カ月が過ぎた頃のこと、風邪をひき学校を休んでしまった賢雄君はここから坂道を転がるようにいろいろな事態が起こり出す。
入学した学校は出席率をとても大事にする学校だった。校長先生の話の後には必ずクラスごとの出席率が発表されていたという。賢雄君は自分のクラスの出席率が下がっていることがわかると、なぜか「自分のせいだ」と思いつめるように。
友達から気に入らないあだ名をつけられたのはその頃だった。「キノコ頭」。同級生が何気なく髪型を茶化してつけてきたこの呼び名が賢雄君はどうしても許せなかった。「やめてよ」といっても呼び続ける級友に、思わず手が出てしまった。
いじめ、そして体が悲鳴を上げ…
その日を境に小さないじめがはじまった。ロッカーにしまっておいた運動靴が外に放り出されたり、財布からお札が抜き取られることもあったと言う。「学校に行きたくない」という気持ちは強くなり、週に1日は学校を休むように。担任を含む関係生徒との話し合いの末、いじめの件は落ち着いたのだが、賢雄くんの中に蓄積された“根雪”が解けることはなかった。
「なぜ、僕はこんなに頑張らなくてはいけないのか……」
満員電車に揺られて学校へ行き、8コマの授業をこなし、また1時間半かけて帰宅する。自宅に着く頃にはすでに夜8時前。ご飯を食べてお風呂に入り寝るだけのサイクル。気持ちとの因果関係はわからないが、追い討ちをかけるように今度は賢雄君の体が悲鳴を上げた。過敏性腸症候群。便がゆるくなりやすくなり、1時間半の通学がつらい状態になったのだ。
「せっかく入った学校なのだから」と、母親の律子さんは懸命にフォローした。とにかく、学校に着けば何とかなる。電車での通学が難しいのならば、車で送っていってやろう。そうすれば、車の中で休んでいることができる。毎日片道2時間の道のりを車で送迎、2年生の1学期はこうして何とかやり過ごした。
だが、賢雄くんの心と体調が整うことはなく、2年生の2学期からは公立に転校、賢雄君の中の“根雪”はそこからまた冷たさを増していき、登校2、3日で不登校となってしまった。
「今までの時間は何だったんだ。何のために塾に通い、人よりも勉強してきたんだ……」
賢雄君の頭の中にぐるぐると現れるのは「何のために……」という思いだった。
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