中学受験を終えた少年を襲った「想定外の地獄」 「中高一貫で成績を伸ばす学校」のカラクリ

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引きこもりとなった賢雄君は昼夜が逆転。はじめは家族のいる時間にリビングに下りることもあったのだが、そのうちにほとんど顔を合わせなくなった。そんな中、2歳違いの妹も中学受験をすることに。これが賢雄君の反抗期だったのか、自分でも驚くほどの憤りの気持ちが湧き起こったのだという。

「妹にも僕みたいな思いをさせるのか!」

怒りを両親にぶちまける日々。だが、妹本人は「私、ここの学校に行きたい」と志望校を早々に決め、受験を難なくクリアして、希望する学校に通い出したのだ。

「なんだ、僕だけか、こんな気持ちになるのはと、だんだんと自分が情けなくなって、さらに引きこもってしまったんです」

夜な夜な冷蔵庫の中身を全部リビングにぶちまけるなど、賢雄君は今の彼からは想像もできないような傍若無人な態度をとっていた。

「周り全部が嫉妬の対象でした。小学生のとき、周りの子と同じように普通に地元の中学に上がらせてくれていたら、こんなことにはならなかったんだとか、中学受験してしまったばっかりにという気持ちが残ってしまっていたんです」

「中2の京都を取り戻したい」

だが、そんな引きこもり生活から脱却したのはとことん自分の気持ちと向き合った賢雄君自身の内側からの声だった。

「中3の4月だったかな。修学旅行で京都に行くことになっていて、なんかここを目標にしようと思ったんです。実は私立中学に通っていた頃に中2の夏休みに修学旅行があったのですが、不登校になってしまって行けなかったんです。そのときも行き先は今回と同じ京都。なんか、そのときの“京都”を取り戻したいって思ったんですよ。理由はわからないんですが」

1年近く引きこもっていた賢雄君は目標が持てたことをきっかけに保健室登校を始め、徐々に外に出られるように回復した。クラスには入れなかったものの、独学で高校受験の準備を進め、偏差値40ちょっとの県内の高校へ進学、高校には何とか通い、1浪を経て都内の大学に進学した。

「同じように中学受験をした妹はきちんと学校にも通えていました。僕の場合はおそらく、自分で選んだという気持ちがなかったことが原因だったのかもしれません。自分で責任を負う気持ちがどうしても生まれませんでしたから」

そんな賢雄さんにこれから中学受験に挑もうとする親子に伝えたいことを聞いてみた。

「母親が2時間もかけて車で送迎してくれたことは本当に頭が下がるのですが、僕の場合は中学受験をすると決めたのも親だったし、学校を決めるのも親でした。僕には意見がなかった。きちんと自分の意思を持って入学できていたのなら、違った歩みになったのではと。

子どもが意見を言わないのは同意ではなくて、自分のようにただわからないだけということもあります。これから中学受験をしようとされている親子さんたちに伝えることがあるとすれば、意思を持って受験に挑んでほしいということでしょうか」

雪解けを迎えた賢雄くんは、自ら選んだ大学に進み、自ら選んだ会社を受け、内定を勝ち取り、立派な大人へと成長していた。

本連載「中学受験のリアル」では、中学受験の体験について、お話いただける方を募集しております。取材に伺い、詳しくお聞きします。こちらのフォームよりご記入ください。
宮本 さおり フリーランス記者

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みやもと さおり / Saori Miyamoto

地方紙記者を経てフリーランス記者に。2児の母として「教育」や「女性の働き方」をテーマに取材・執筆活動を行っている。2019年、親子のための中等教育研究所を設立。

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