問題はそれだけではありません
以上のような方法によって個人の顔の識別が可能になった場合、それがどう利用されるかです。
顔認識ができるようになれば、それはAIによるプロファイリング(大量のデータから、個人の属性・所得・嗜好などを推測すること)に使われます。写真に写った個人が誰かを判別できるようになるのです。
この利用は、電子マネーの決済だけではありません。
最近では、タクシーの中にある広告パネルが乗客の顔を認識し、その人にあった広告を流すようになっていると報道されています。「画像パネルに自分が誰かを把握されてしまうのは気持ちが悪い」と考える人は多いでしょう。
それだけならまだしも、国家による管理に用いられる可能性があります。
これは、中国ではすでに現実の出来事となっています。警察官が顔認識機能を持つ特殊なゴーグルを装着し、それによって犯人を検挙しているというのです。1万人が集まったコンサートでたった1人の指名手配犯を見いだし、検挙したというニュースが報道されました。
こうなると、ジョージ・オーウェルが小説『1984年』で描いたビッグブラザーよりもはるかに強力なデジタル支配者が現れ、究極の管理社会が実現される可能性があります。中国は、そういう社会に向かっていると考えることもできます。
個人情報を提供しなければ仕事ができない
こうした事態に対処するため、EU一般データ保護規則(GDPR)は、「プロファイリングされない権利を認めるべきだ」としています。
しかし、これで問題が解決されるでしょうか?
Google フォトの例を思い出してみると、われわれは、この利用から大きなメリットを受けています。だからこそ、進んで個人情報を提供しているのです。
「プロファイリングされるのは嫌だから、こうしたサービスは用いない」とは言えない状況になっています。
これは、写真に限ったことではありません。検索、メール、マップなどのインターネットサービスについて、等しくいえることです。
われわれはすでに、こうしたサービスを利用しなくては、仕事をしたり生活をしたりすることができなくなっています。すでに、トロイの木馬を城の中に引き入れてしまったのです。
そうしたことを考えると、GDPRが提案していることは、およそ見当違いと考えざるをえません。
日本では、公正取引委員会が、独占禁止法によってGAFAなどを規制しようとしています。しかし、問題は価格支配力ではないので、これが問題解決のための方向であるとも考えられません。
個人のプライバシーを守りつつ、利用価値の高いインターネットサービスを使うにはどうしたらよいのか?
この問題は、どうしても解決されなければならないものです。しかし、今までわれわれが経験したことのない極めて難しい問題です。
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