池上彰が解説「今さら聞けない新聞の読み方」 新聞ごとの論調にどのような違いがあるのか

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今から40年くらい前、私が学生だった頃、『◯◯新聞』という題字を隠してしまえばどこの新聞だかわからないと言われたものです。つまり、新聞が違っても、書いてあることはどこも同じというわけです。

例えば、1959〜1960年、日米安全保障条約の改定をめぐる政治闘争、いわゆる「60年安保」のときの新聞報道です。デモ隊が国会議事堂に突入し、機動隊と衝突して、1人の女子学生が死亡しました。

この事件について、在京新聞7社が「暴力を排し議会主義を守れ」と、まったく同じ文言の社説を掲載しました。この「7社共同宣言」は地方紙にも広まりました。この事件が起こるまで、日米安全保障条約をめぐる社説は、新聞によって主張が異なりました。それが突然、まったく同じになってしまったのですから、当時は大きな議論を呼びました。

現在の新聞報道は?

現在はどうでしょう? 憲法改正、原発再稼働、特定秘密保護法、沖縄の基地問題など、新聞によって論調が分かれていることが多いのではないでしょうか。大ざっぱにいえば、「朝日・毎日・東京」がリベラル・左、「読売・産経」が保守・右、真ん中に「日経」があるといった構図でしょうか。

ただし、昔からずっとそうだったわけではありません。時代によって、新聞社の体制によって、論調は変化してきたのです。例えば、かつて読売新聞は「反権力」色の濃い新聞でした。1950年代~1960年代にかけて、社会部が大きな力を持っていたからです。

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しかし、今ではすっかり政権寄りの新聞と見なされています。政治部出身の渡邉恒雄氏が頭角を現したことが理由の1つです。日本の多くの新聞社では、政治部が出世の最短コース。経済部、社会部と続きます。社内政治によるパワーバランスが、新聞の論調に大きな影響を及ぼしています。

かつて新聞ごとの論調の違いは、社説で論じられていました。各紙とも社説で意見を戦わせていました。しかし近年では、記事にも各紙の論調が明確に表れるようになってきています。

例えば、憲法改正について、朝日新聞・東京新聞には、反対集会や批判的なコメントが多く取り上げられ、賛成する人のコメントは目立ちません。逆に読売新聞・産経新聞には、賛成する意見ばかりが多く掲載される傾向があります。

それぞれの新聞に個性・特徴が出てきたのは、決して悪いことではないと、私は思います。もちろん、裏付けのある事実を伝えなければなりませんが、伝え方が異なるのは当たり前です。れっきとした民間企業なのですから、個性的であって構わないのです。

一方、テレビやラジオは事情が違います。放送メディアは中立の立場を守らなければなりません。電波という限られた資源を使っているため、国の免許事業となっているからです。放送法という法律で「政治的に公平であること」などと定められています。

新聞は自由に持論を展開でき、伝え方を選べます。だからこそ、受け手の姿勢が大切です。新聞の個性に引っ張られるのではなく、読者として主体的に判断する、自分なりの基準を身に付けていきたいものです。

池上 彰 ジャーナリスト

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いけがみ あきら / Akira Ikegami

1950年、長野県生まれ。1973年慶應義塾大学卒業後NHK入局。ロッキード事件、日航ジャンボ機墜落事故など取材経験を重ね、後にキャスターも担当。1994~2005年「週刊こどもニュース」でお父さん役を務めた。2005年より、フリージャーナリストとして多方面で活躍中。東京工業大学リベラルアーツセンター教授を経て、現在、東京工業大学特命教授。名城大学教授。2013年、第5回伊丹十三賞受賞。2016年、第64回菊池寛賞受賞(テレビ東京選挙特番チームと共同受賞)。著書に『伝える力』 (PHPビジネス新書)、『おとなの教養』(NHK出版新書)、『そうだったのか!現代史』(集英社文庫)、『世界を動かす巨人たち〈政治家編〉』(集英社新書)など。

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