レバノン「通話アプリ課税」で大規模デモのなぜ 首相が辞意を表明しても怒りは収まらない

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レバノンでは、「無料通話アプリ」に対する課税案に対する激しい反発が起きている。首都ベイルートでは数万人規模のデモも(写真:Mohamed Azakir/ロイター)

かつては「中東のパリ」と称された華やかな街並みを誇ったレバノンの首都ベイルート。今、ここでは怒れる群衆が街頭を埋め尽くす。スマートフォンの対話型アプリ「WhatsApp(ワッツアップ)」など無料通話への課税方針をきっかけに大規模デモが起き、ハリリ首相が辞任表明する事態に発展したのだ。

2010年末に始まった中東の民衆蜂起「アラブの春」など、たびたびデモに見舞われてきたレバノン。今回は、宗教や宗派を越えて国民が一致団結し、政治システムそのものに三行半(みくだりはん)を突き付ける異次元のデモとなっている。

財政難にあえいでいる

レバノンは、18の宗派が存在するモザイク国家だ。1975年に始まった内戦が1990年に終結した後、各宗派に政治権力が配分された。が、民主主義的な政治は定着せず、宗派が利権を分け合い、主要な政治家やその一族に権力や金が集まる歪んだ政治構造が定着した。

経済失政で人口の約3割が貧困層に転落する中、民衆の不信感は政治勢力すべてに向かい、小手先の改革では怒りが収まりそうにない。国民は、抜本的な政治変革や政治家の総入れ替えを要求している。だが、権力者の抵抗が必至で新たな政治の受け皿づくりも容易でない。アラブの春で中東が混乱に陥ったように、レバノンも改革要求がさらなる事態の悪化を招く恐れがある。

中東で目下、デモが起きているのはレバノンだけではない。北アフリカのアルジェリアやイラク、スーダン、エジプトやイランでも最近、民衆が体制への不満を口にして立ち上がった。アラブの春は、独裁者打倒後の受け皿の欠如や体制の巻き返し、イスラム勢力の台頭といった要因で頓挫した。

しかし、民衆の不満の矛先が向かった経済失政や政治指導者たちの汚職、行政機構の不効率といった根本的な問題はまったく解消しておらず、新たな蜂起が起きるのは時間の問題といえた。

レバノンは、2018年4月時点の政府総債務残高は対GDP比152%と財政難にあえいでおり、政府は付加価値税の段階的な引き上げや、ガソリン、タバコへの増税、無料通話アプリへの課税で事態を乗り切ろうとした。

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