レバノン「通話アプリ課税」で大規模デモのなぜ

首相が辞意を表明しても怒りは収まらない

フランスの経済学者トマ・ピケティ氏の著書『資本とイデオロギー』によると、ヨーロッパでは10%の富裕層が34%の富を得ているのに対し、中東地域では10%の富裕層が64%の富を得ており、所得格差が大きい。レバノンでは、多くの政治家を含む富裕層の上位0.1%が国民所得の10%を占める。政治家になるのが財産を築く近道となっている。

前出の記者は「ナビハ・ベリ国会議長や(少数民族ドルーズ派の政治指導者)ワリド・ジュンブラット氏ら数十億から数百億ドル規模の資産をスイスなどの金融機関に蓄財している政治家もおり、国民の富が政治によって抜き取られている」と指摘する。

複雑なレバノンの政治状況

今回のデモでは、アラブの春の際のデモで叫ばれた「サウラ(革命)」とともに、「すべての者とはすべての者だ」とのスローガンも登場。民衆は政治家すべての総退陣を求めている。宗派間の勢力均衡を図るため、大統領はマロン派、首相はスンニ派、国会議長はシーア派から選ぶのが慣例たが、「宗派ではなく、能力によって地位に就くべきだ」との声も多い。

だが、アラブの春に見舞われた中東各国では、体制に代わる権力構造を構築できず、独裁的な指導者が地位を追われても独裁的な統治機構が温存された経緯がある。レバノンでも、内戦終結から約30年に及ぶ政治は、同じような顔触れの政治家や世襲政治家による構造をつくり出しており、政治の刷新は簡単には実現しそうにない。

シリア内戦が大国の代理戦争の舞台となったように、レバノンも地域大国の介入によって不安定化しかねない危険がある。地域大国のサウジアラビアやイラン、過去にはシリアといった外部勢力がレバノン政治に干渉してきた。

ハリリ氏は2017年11月、訪問先のサウジで辞任表明(のちに撤回)したことがある。サウジが敵対するイランの影響力拡大に十分に対処していないとして、サウジに脅される形で辞任表明を迫られたというのが真相とみられている。

さらに、政治に武装組織が参画するレバノンならではの事情も政治を複雑にする。イスラム教シーア派武装組織ヒズボラは、シリア内戦に参戦してアサド政権の存続に一役買い、レバノン国内でも影響力を強めてきた。ヒズボラは、レバノン国軍を凌駕する軍事力を保有し、対イスラエルという点では、シーア派を中心に一定の支持を集めてきた。

過去には、ほかの政治勢力に汚職対策や政治改革を求めたこともある。しかし、今回のデモでは、「すべての者とはすべての者だ。ナスララもその一人だ」とのスローガンが叫ばれ、ヒズボラ指導者ハッサン・ナスララ師もやり玉に上がっている。

ナスララ師は最近の演説で、増税方針を批判しながらも政権の退陣には否定的な考えを示している。ヒズボラにとって政権に参加しておくことが、「国家内国家」といわれて軍事力も温存するヒズボラの利権を守ったり、批判の矢面に立たされたりしないためには必要との判断がある。ヒズボラも、政治の刷新を望む民衆の前に立ちはだかっており、レバノンに巣食った権力構造の解体は簡単には進みそうにない。

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