地方都市で号砲、オフィスビル開発競争の行方 オフィスビル誘致にあの手この手

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自治体からのラブコールに対して、当のデベロッパーの受け止めはどうか。仙台市内では、東京建物が地上9階立てのオフィスビル「仙台花京院テラス」を開発中だ。2020年1月竣工予定のこのビルは、仙台市の規制緩和の対象ではないが、「市の施策は充実した内容だ。今後開発機会があれば、前向きに検討していきたい」(大野好範・都市開発事業部事業開発グループ課長代理)と期待を示す。

同じく仙台駅前では、オリックスも自社の商業施設「GSビル」の解体を今秋に完了させた。隣接する運営中の商業施設「EDEN」も含めて、「今後の開発については未定」としているが、なにがしかの再開発を検討していると見られる。

まとまらない駅前百貨店の跡地開発

他方で、デベロッパーからは「規制緩和ありきではなく、地域のオフィス需要がどこまで続くのかが問題だ」と、開発に慎重な声も聞かれる。

足元でのオフィス需給こそ逼迫しているものの、5年後、10年後はどうなっているかわからない。東京に次ぐ都市である大阪でさえ、「リーマンショック後に空室率がハネ上がり、賃料を下げても埋まらなかった」(在阪デベロッパー)という苦い記憶が色濃く残る。

仙台駅前に建つ「さくら野百貨店仙台店」は、2017年2月の閉店後も未だ跡地の開発方針が決まっていない。複数存在する地権者同士の合意形成がまとまっていないためだ。

現在の「さくら野百貨店仙台店」。テナントはすべて退去し、内部は廃墟状態となっている。地元からは「中心部の景観を害する」という声も(記者撮影)

関係者によれば、今年に入って調停が成立し、ようやく跡地の入札が行われるもようだ。だが、広大な跡地に対しては、「投資の規模が大きく、相当な覚悟が必要だ」(大手デベロッパー幹部)という声も漏れる。大きなオフィスビルを開発して、需給が緩まないかという懸念は残る。

別のデベロッパーからは、「オフィスよりもホテルやマンションのほうが儲かる」という声も上がる。仙台市では市が示した開発誘導エリアのすぐそばで、関電不動産開発が地上23階建てのタワーマンションを建設中だ。職住近接の趣向を受け、本来オフィスエリアだった地域にも住宅が侵食する中、自治体の思惑どおりにオフィスビルが開発されるかは見通せない。

各都市とも足元のビルの稼働率は高止まり状態が続き、賃料も上昇基調にある。ただ今後は、都市間での誘致合戦が一段と厳しさを増すことになりそうだ。

一井 純 東洋経済 記者

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いちい じゅん / Jun Ichii

建設、不動産業の取材を経て現在は金融業界担当。銀行、信託、ファンド、金融行政などを取材。

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