キリン、ノンアルビールで「打倒アサヒ」なるか 健康志向が追い風、消費増税で駆け込みも

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その後、2010年にサントリー、2012年にアサヒグループホールディングスが新商品を投入し、キリンはまたたく間にシェアを奪われた。

2013年のキリンのノンアルコール市場のシェアは15.4%(ユーロモニター調べ、以下同)にまで低下。その後も巻き返すことはなく、2018年は15.1%にとどまっている。現在ノンアルコールビールのシェア1位を占めるのは、「ドライゼロ」を販売する最後発のアサヒで、2018年のシェアは39.5%だ。次いでサントリーが33.5%を占める。

初年度シェアに「あぐらをかいていた」

キリンがここまでシェアを落とした理由についてキリンHDの広報担当者は「発売初年に大きくシェアを占め、あぐらをかいていた」と率直に語る。サントリーやアサヒがキリンの商品よりも安い価格で参入しても、圧倒的シェアを理由に値下げを行わなかった。

P&G出身で、キリンのマーケティング戦略を担当する山形光晴マーケティング部長(撮影:梅谷秀司)

もう1つの理由が販促費だ。キリンは2009年にオーストラリアのビール会社を子会社化し、2011年にブラジルのビール会社を取得するなど、海外投資を優先させていた。そのため、当時で年間1000億円の酒類の販促費を投じていたアサヒグループHDに対し、キリンは年間800億円ほどにとどまっていた。

その後、2015年に就任したキリンHDの磯崎功典社長が海外事業を含め不採算事業の整理を進める。赤字化したブラジル事業は、買収からわずか6年後の2017年に売却されるに至った。

さらに、ノンアルコールビールは一般的なビールに比べて限界利益率が高い。富国生命によると、ビールは売り上げの約3分の1に酒税(350ミリリットルあたり77円)がかかるため、限界利益率は32%と低い。それに対し酒税のかからないノンアルコールビールは、限界利益率71%を誇る。規模が小さいとはいえ市場拡大基調のノンアルコールビールは、マーケティング分析でいう低シェアの「問題児」から高シェアの「花形」へ変わり、かつ、しっかり稼ぐポテンシャルを持っているというわけだ。

長い間シェアを失っていたキリンが、今再び本腰を入れるノンアルコールビール。高齢化でビールの消費量が減少する中、ノンアルコールビールは市場拡大の可能性を秘めている。ビールの代替品に留まらない、健康需要などの新たな飲用シーンをどれだけ消費者に浸透させられるかが課題だ。

兵頭 輝夏 東洋経済 記者

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ひょうどう きか / Kika Hyodo

愛媛県出身。東京外国語大学で中東地域を専攻。2019年東洋経済新報社入社、飲料・食品業界を取材し「ストロング系チューハイの是非」「ビジネスと人権」などの特集を担当。現在は製薬、医療業界を取材中。

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