映画「楽園」は事件で残された人を描いた作品だ 瀬々敬久監督が吉田修一の犯罪小説に挑む

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――「犯罪小説集」という小説のタイトルが、映画では『楽園』というタイトルに変更されました。とても皮肉なタイトルにも感じられるのですが。

犯罪を扱った映画ですが、犯罪に関わった人たち、犯罪を起こしたかもしれない人たちというのは、やはりどこかに、よりよく生きたいという欲望があったんだと思う。

消息を絶った少女と事件直前まで一緒だった親友・湯川紡役を演じる杉咲花 ©2019「楽園」製作委員会

だからこそ、社会的にボタンのかけ違いや、すれ違いが起こって、自分の思うようにならなくなった時に、犯罪に走ってしまったのかもしれない。彼らの根本にはよりよく生きたい、この世界をもっといいものにしたいっていう思いがあったと思う。

そしてそれは僕たちにも共通にある意識だと思います。そういうものを扱いたいというか、考えたいということですね。だから最終的にこの『楽園』という映画で、杉咲花さん演じる少女は、友人から「お前は楽園を作れ」と言われます。

彼女に希望を託したかったということはありますよね。でも一方で、綾野剛さんや、佐藤浩市さんが演じていたような、追い詰められていく人たちにとっては、皮肉なタイトルにしか見えないのかもしれません。

『楽園』は追い詰められた人には皮肉なタイトル

――映画のタイトルを『楽園』にします、と吉田さんに報告した際のリアクションはどうだったのでしょうか。

実はタイトルを決めるような会議があり、その時に吉田さんも参加されていました。なかなかいいタイトルが見つからなかったのですが、『楽園』はどうですかと吉田さんに提案した時に、「気持ちはよくわかります。ただ既視感が若干あります」とおっしゃっていました。

というのも吉田さんの短編の中に、ほかの「楽園」というのがあるんですよ。それから小説で「楽園」と検索すると、宮部みゆきさんの作品が上位に出てくる。そういう意味では、よく使われているタイトルになります。しかし、『犯罪小説集』を映画化するに当たっては、何か映画化への思いみたいなものは伝わるタイトルだ、ということはおっしゃっていただきました。

――吉田さんとのやり取りはけっこうあったのでしょうか。

けっこうありましたね。プロットの段階から見せて、話をしたりとか、脚本の段階で話をしたりとか。いろいろありましたよ。ただ、基本的には任せてもらえました。というのも、やはり2本の短編から1本の映画を作るということを、吉田さん自身、想像すらしていなかったと思うんですよね。

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