開始10年「裁判員制度」から見えてきた"光と影"

3分の2の人が裁判員を辞退する理由

“国民の権利”としての法。それを担うことは義務だという点にも疑問を投げかける。

「導入理念は理解できますが、その前に、小学校や中学校、高校での法教育が必要でしょう。日本は、ごく初歩的な法教育が全然足りていない。例えば先日、東京・池袋で起きた高齢者の運転暴走事故でも“逮捕”が大きな議論になりましたが、逮捕は処罰ではない、というごく基本的な法知識を、ほとんどの人が持っていないという現実があるわけです。

そういう根幹を根づかせないまま、いきなり刑事裁判に参加させて“司法への理解を深めましょう。法を担うのは国民の権利であり義務です”というのは、一足飛びのような気がしますね」(小林弁護士)

3分の2が辞退してしまうほどの制度参加への重い足かせ

33年間、裁判官として民事裁判を担当した明治大学法科大学院の瀬木比呂志教授がまず問題視したのは、多くのメディアでも指摘されている辞退率の高さ。裁判員制度が始まった直後の2010年度は53%だったが、​2018年度には、67%もの候補者が裁判員を辞退している

「3分の2もの人が辞退していることについては、制度への疑問や不信が背景にあって、それによって参加へのインセンティブが低くなっていることが大きいのではないかと」

◆基本的には辞退できないが、辞退が認められるケース
・70歳以上の人
・学生
・重い病気やケガ
・親族・同居人の看病や介護、養育
・妊娠中
・とても重要な仕事があり、自分で対応する必要がある
・結婚式・葬式などへの出席
・重大な災害で被災
・裁判員経験者や裁判員候補として裁判所へ行った経験のある場合……など

瀬木教授は「守秘義務の対象の無限定な広さと厳しさ」が制度参加への足かせになっていると指摘する。裁判員が評議に関わる情報を他人に話したり、SNSに投稿する行為は原則禁止。また法文上は守秘義務の対象は評議の秘密に限られていない。守秘義務は裁判後も一生続き、違反すると6カ月以下の懲役、50万円以下の罰金が科せられる。

「あんな守秘義務規定は国際的に見て非常識です。ことに懲役刑はひどい。“裁判員をやれ”と言っておきながら守秘義務の対象が無限定で、ちょっとでも情報を漏らしたら懲役なんていう制度では、やりたくない人が増えて当然でしょう」(瀬木教授)

もちろん有罪無罪や量刑についての個々的な意見や個人のプライバシーについての情報は、裁判員の安全を守るうえでも、関係者の個人情報保護の観点からも口外してはいけないというのは当然。しかしペナルティーについては、

「せいぜい罰金まで。そもそも裁判官がしっかり説明しておけば、裁判員が先のような情報を漏らすことはないはず。アメリカでは州により違うと思いますが、守秘義務対象は先のような事柄のみ。刑罰を決めているというのはあまりないでしょう」(瀬木教授)

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