開始10年「裁判員制度」から見えてきた"光と影" 3分の2の人が裁判員を辞退する理由

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みなさん、“裁判員としてきちんと務めよう”という気持ちがすごく強いんです。本当に真剣に、事件と向き合ってくださっているな、と感じます。もちろん、その事件や被告人に対する怒りとかそういう気持ちがある方もいると思うんですが、真剣だからこそ、その気持ちを持ちながらも、一方で、冷静に考えている方がほとんどだと感じます」(村田判事)

裁判員裁判が始まったことにより、現場の裁判官たちも刑事裁判がよい方向に変わったことを感じている。

最大のよい変化は、裁判が、わかりやすくなったこと。これは“公判前整理手続”の導入による効果が大きい。

これは“この事件のいちばん大事なポイントは何であるのか?”ということをあらかじめ、検事、弁護人と打ち合わせを行うことで判断するポイントを絞り込んでから裁判を始めるという仕組みです。裁判員と一緒に審理するときに、無駄な審理をしないよう“必要ない証拠はなるべく出さない”ようにするんです。裁判員の負担軽減という意味においても大切」(小森田判事)

裁判員裁判では全件、この公判前整理手続がとられているが、波及効果により刑事裁判全体で審理がスピーディーに正確になった。

「以前は、検察官がたくさん出してきた証拠を、裁判官が全部見て判断していたわけですが、その中には、必ずしもこの事件の判断には必要でない証拠も出てきたりすることがあったり。だから、まず、“その証拠が判断に必要かどうかを、判断する”二重の手間がかかっていた。今は、そういうことがないようになりつつある」(小森田判事)

裁判員裁判って“見て、聞いて、わかる裁判”と言われたりもしますが、確かに誰にとっても……裁判官にとっても、わかりやすい裁判になりつつあるのかな、と。証拠をモニターで見ながら検察官の説明を聞くことができるようになったことで、“こういう事件だ”と理解して、有罪か無罪かというのを法廷の中で考えられるようになってきました」(村田判事)

これは判断する側だけではない。被告人自身も、法廷で証拠が映し出されるモニターを見られることで、

「“なぜ自分が有罪になるのか”“なぜこの量刑なのか”が、以前よりも被告人自身にとってもわかりやすく伝わりやすくなってるのかな、と思います」(小森田判事)

裁判員制度が抱える問題&課題

だが、よい面ばかりではない。これまでの10年間の運用で多くの問題点や課題も指摘されている。NHKの人気番組「みんなで筋肉体操」に出演した“筋肉弁護士”こと小林航太弁護士は、裁判員に対する“裁判所の姿勢”に疑問を呈する。司法修習生時代、裁判員裁判の評議を見学したときのことだ。

「評議は本来は絶対非公開なんですが、修習の一環として司法修習生だけが唯一、見学できるんです。裁判員や評議にいっさい影響を与えてはいけない、ということで、発言厳禁はもちろん表情も変えるな……どころか“裁判員の顔もジロジロ見てはダメ”ときつく言われていて。担当教官に“キミたちは観葉植物になれ!”と……(苦笑)。

そのときの第一印象が、“(裁判員を)接待してるなぁ……!”ということでした。“評議室にお菓子を置く必要あるのかな?”と。裁判員の負担軽減は大事ですが、いちばん大切なのは何より審理。“裁判員のための裁判”ではないのに、と正直、感じました

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